権利主張を強める大学の知的財産戦略

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2004年08月06日

  • 岡村 公司

日本の国立大学が組織的な意志を持ち始めた。従来は国の一組織として文部科学省が決めたことを横並びで実行する場合が多かったが、四月に国立大学法人として独立してからは各大学の独自性が問われるようになった。学長のリーダーシップの下で中期目標や中期計画が作成され、自主的な運営が実践されていく。

学内の知的財産を活用するための産学連携を重要視している大学は多い。特許等の知的財産権は研究者個人に帰属することが多かったが、法人化後は法人としての大学に帰属することを原則とする大学が大勢を占める。大学本部に知的財産本部が設置され、全学的な事業が推進されていく。各研究者が独自に決めていた研究テーマなどに組織的な方向性を持たせることで、産学連携でも大きな成果を挙げることをめざす。

特許等を機関帰属とすることで大学が研究者や民間企業等に対して権利主張を強める。各研究者は特許を取れる可能性のある研究成果を大学に報告する職務上の義務を負う。また、大学の特許を侵害している企業に対しては、損害賠償を求めて大学が提訴することも想定される。

先行する米国では、大学が大学発ベンチャーを訴えて巨額の賠償金を勝ち取るケースもある。バイオ創薬で世界的な大企業に成長したジェネンテックは、1976年にカリフォルニア大学のボイヤー教授がベンチャーキャピタリストとともに起こした大学発ベンチャーである。90年にヒト成長ホルモンに関連した特許侵害についてカリフォルニア大学が同社を提訴。結果として、1億5千万ドルの現金と5千万ドル相当の研究施設を合わせて総額2億ドルを大学に支払うということで99年に和解している。

2007年度には大学志願者数が入学定員総数を下回る「全入」の時代に入り、大学間の競争が激化する。一方、国内トップクラスの大学では、研究開発や人材育成に関して、欧米や東アジアなどの有力大学とグローバルに競う時代になっている。研究と教育のレベルを向上させるとともに、知的財産の活用を徹底し、産学連携でも優れた成果を創出することが将来の「勝ち組」になるための重要な要素となっていこう。

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