欧州クロスボーダー取引拡大は金融再編を促す

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2004年08月03日

  • 佐藤 清一郎
2004年7月26日、スペインのSantander Central Hispano銀行による英国のAbbey National銀行の買収報道がなされた。欧州金融再編の動きが、また始まりそうな予感がする。金融再編の流れを生み出している一つの要因として、クロスボーダー取引(国境を越えた取引)の拡大が指摘できる。欧州では、経済統合の動きの中で、人、物、資本の域内移動が自由化されことに伴って、国と国の取引が増加してきている。1999年には、共通通貨ユーロが導入され、欧州域内での為替リスクが消滅した結果、国境越え取引は、更に活発となっている。

欧州中央銀行が運営する資金決済システムTARGETのデータによれば、全体の中で、クロスボーダー取引金額の占める割合は、2004年第1四半期で33.5%となっている。また、クロスボーダー取引件数で見ると、全体の中に占める割合は、1999年第1四半期16.1%から、2004年第1四半期には24.5%にまで高まってきている。

加盟国間での資金決済状況を見ると、3つの特徴が観測できる。第1が、ほとんどの国でドイツへの支払い割合が高くなっていること。特に割合が高い国としては、オーストリア45.1%、ギリシャ42.7%、英国39%、ルクセンブルク34%が揚げられる。第2が、大部分の国が、上位3ヶ国で、全取引額の6割程度を占めるに至っていること。上位3ヶ国での取引集中度合いが高い国としては、英国74.9%、オランダ73.6%、フランス72.2%がある。第3が、地理的に近い国の取引割合が高くなって、ドイツとの割合を越えている国があること。これには、アイルランドとフィンランドが該当する。アイルランドを見ると、ドイツへの支払い割合は25.5%であるが、英国へは29.6%となっている。また、フィンランドの場合は、ドイツへの支払い割合は15.3%であるが、スウェーデンへは16.4%となっている。

共通通貨導入後、順調に拡大を続けている欧州金融機関のクロスボーダー取引は、2005年にEUレベルで完成予定の「欧州金融サービス行動計画」による各国の障壁低下によって更に拡大することが期待される。クロスボーダー取引拡大は、規模の経済性を追求しやすい環境と同時に競争激化をもたらすことで、欧州金融機関の再編を更に促すことになるであろう。

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