アジアの低PERは必ずしも株価反発、上昇につながらず

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2004年07月26日

  • 由井濱 宏一
米国利上げ後のアジア市場のセンチメントは依然として弱い。それを示す最たるものが、売買代金の縮小である。たとえば、アジア市場が年初来高値をつけた04年1月~3月の売買代金レベルからみると、最近のアジア主要市場の売買代金は40%以上減少、台湾に至っては70%以上もの減少を記録した。このような市場流動性の大幅な低下はこれまでも指摘してきたように、(1)アジア主要国の景気指標のピークアウト感、(2)中東での地政学的リスクの高まりなどによる原油先高感、(3)米国の継続利上げに対する思惑、中国の金利引上げに対する不確実性、(5)PCなどのハイテク需要の先行き不安と過剰供給懸念、などが背景となっているが、現時点で株価上昇に繋がる要因を見出しにくいのも事実である。、現在、市場は(1)景気の基調は強いが米国を始めとする金利引上げが先々の景気減速を招く可能性、(2)実は景気の足腰は輸出も含めて既にピークアウトしており、既に下降局面にある可能性、の2つの見方の狭間で揺れているようだ。

このところの株価調整で、アジア各国のPER(MSCI、12カ月 forward EPSベース)は急速に低下してきた。特に株価下落率の大きかった韓国、台湾では6月末の時点でそれぞれ6.2倍、9.9倍となり、台湾のPER10割れは少なくとも91年以降では初めての現象である。また、韓国については7月以降も株価下落が続いたことから現時点では5倍台にまで低下している公算が大きい。これも近年まれに見る低水準である。こうした点からみると確かにPERは下がりきるところまで下がったとはいえるが、これが必ずしも目先のリバウンドを保証するものではない。外部環境の悪化に伴い、企業収益の伸び率が05年は大幅に低下するとみられ、04年も中盤を過ぎたことから市場はその点を織り込み始めると見られるからである。実際、PERとEPS伸び率の関係をプロットし、PEG(PER/EPS growth)が1となる水準を適正評価と考えると、ほとんどの市場がPEG=1の水準を上回っており、EPS伸び率の水準との相対比較で現在の株価水準は決して割安とはいえなくなってきている。このEPS伸び率を04年ベースで見ると、EPS伸び率が高めとなっているため確かに多くの市場がPEG=1の水準を下回り割安とも判断できようが、04年の業績好調は既に株価には織り込まれている公算が高い。

米景気の減速懸念やハイテク需給の緩みなどの点からみて韓国、台湾がアジア市場では相対的に不利であり、シンガポール、オーストラリアが優位であるとの見方は継続する。特にシンガポールでは足下で不動産価格がようやく下げ止まりの兆候を見せ始め、上昇ピッチはともかく先にリバウンドした香港を追随する可能性がある。不動産価格とシンガポールの銀行セクターとの相関の強さを考えると、今後銀行や不動産セクターの投資妙味はさらに高まると思われる。

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