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米国エコノミストの素朴な疑問

2004年07月05日

牧野 潤一

6月初め、米国に出張し機関投資家と意見交換をする機会を得た。投資家の日本経済に対する見方は比較的楽観的なものと思えたが、少なからず懐疑的な意見もあった。ここでは、ある有名ヘッジファンドのエコノミストとの意見交換における日本に対する素朴な疑問と、それに対する筆者の回答を紹介したい。

疑念は日本の設備ストックに対するものであった。日本では設備の過剰問題はほぼ解消されてきているとの意見が多いが、投資率(設備投資/GDP比)をみると約15%と米国の約10%に比べ高く、十分調整したとは言えないのではないかというのである。確かに日本の投資率は、経済が低迷した90年代においてすら米国を上回っており、過剰ストック問題が解消されたかは疑問を持つのも無理はない。

これに対する筆者の回答はNOであった。それはフロー変数である投資率がどうであろうと問題はストックであって、比較すべきはストック比率(設備ストック/GDP比)であるからである。設備ストックの生産性である。これは労働生産性を計算するのに雇用者数というストック変数を用いるのと同じ理屈である。それでは日米のストック比率はどうであろうか? 実は日米ともほぼ1である。これは日本の資本生産性が米国と同程度であり、特に調整する必要ないことを意味している。

ではなぜ、投資率に差があるのか? というのが次の質問であった。

これは資本減耗の差による。設備投資は期待成長率に依存する純投資と既存設備の減耗を埋め合わせるための更新投資に分かれるが、90年代の期待成長率の低迷からみると格差は新規投資ではなく、更新投資によって生まれていることが推測される。すなわち毎年の更新投資の額が大きいために、投資率が高くなっているのである。更新投資率が高いのは設備ストックの減耗が大きいことが背景である。なぜなら日米の設備ストックの構成が異なるからである。米国はサービス化が進んでおり、日本より構築物のウェイトが高く、一方、日本は機械のウェイトが高い。機械の減耗率が構築物を上回るため投資率の差が生じるのである。従って、日米の投資率の差(=減耗率の差)そのものは本質的な差とは言えず、むしろ問題なのは90年代以降の日本の新規投資(又は新規投資/GDP比)の低さということができる。しかし、デフレ解消が視野に入ってきた現在、フリーキャッシュフロー20兆円強を持つ日本企業が新規投資にいつ踏み出してもおかしくない状況が醸成されてきている。

米国エコノミストの疑念が晴れたかどうかは定かでないが、日本経済への認識を新たにして貰えることを望みたい。

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