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金星の蝕から学ぶこと

2004年07月01日

原田 泰

6月には日本で130年ぶりに金星の蝕が観察できた。地球と太陽の間に金星が入り、金星の影が太陽のほくろのように見えた。地球と太陽の間に月が入るのが月蝕だから、これは金星の蝕と言って良いのだろう。

130年前とは、1874年、明治7年、西南戦争の前のことであるから、維新回天の大事業が本当に成功するかどうかも分からない時代だった。不平士族の乱が次々と起こり、外国人が切り殺されるという事件も起きていた時代だ。そんな時代の日本に、欧米先進国から多くの天文学者が派遣され、金星の蝕を観察した。なぜ、そんなものをわざわざ見に来るのかといぶかしむ日本人に、彼らは、太陽と金星の距離と大きさが分かると説明した。説明を聞いた日本人は、ただちに欧米先進国の天文学の優れていることを知り、学ぶ必要を理解した。日本の近代天文学の発展はここに始まるという。

19世紀、清の時代の中国にやってきた欧米人は、中国人が欧米の新しい学問に興味を示さなかったことを様々に書き残している。人間の道たる礼は、すでに孔子によって明らかにされ、中国の大学者が様々に解釈している。これ以上、何を知る必要があるというのだろうか。大清帝国は広大富強であり、足らざることは何もないというのである。しかし、その後の進展を見れば、足らざることが多かったのは明らかだ。

1980年代末、銀行が経営破綻を引き起こす可能性のあるとき、決済機能が混乱しないようにするためにはどうすれば良いか、すなわち、信用秩序問題を研究しているアメリカの学者に、日本の銀行関係者は、わが国銀行の経営基盤は磐石であり、信用秩序問題について研究するべきことなど何もないと言ったと、この学者から直接聞いたことがある。金星の蝕について教えられ、すぐさまその重要さと自分の知識の足りないこと悟った日本人が、100数十年たって、大清帝国の人々のような、自己満足に生きる人間になっていた。その後の展開を見れば、信用秩序問題についは、研究すべきことがいくらでもあったのは明らかだったのに。

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