新時代の退職金 と 税・社会保険料
2004年06月29日
そのような就労形態の変化も一因となって、企業の賃金体系も大きく変わり始めている。従来は年功的な要素が中心だった(例えば資格等級に基づいた賃金でも、実質は昇格が年功的に行われていた)が、現在ではメーカー等でも定期昇給の仕組みや年齢給等の年功的賃金体系を改め、役割や成果の評価で賃金に格差をつける方向に改定されつつある。また退職金についても、従来は年功的に金額が累進増加していく制度がほとんどであったが、現在は年功的要素が薄れ、支払方法も在職中に働いた分だけ前倒しに支払ういわゆる“前払い退職金”や“確定拠出年金”を組み合わせる企業が徐々に増えてきている。
ところが、税金や社会保険料の取扱いに関しては、この退職金の環境変化に対応できているとは言いがたい。現在、退職時に支払われる退職金は基本的に退職所得として扱われ税制上の優遇を受けているが、一方の前払い退職金は給与所得として扱われる。そのうえ健康保険や厚生年金についても、前払い退職金は月例給与あるいは賞与と同じように保険料の算定基礎に組み入れられる。このような税・社会保険上の取扱いでマイナス面が残っていると、企業が退職給付制度改革を検討する際、前払い退職金の採用を見送る方向に作用する。これは、時代の流れから発生している新しい就労形態を妨げる・・・・・・ 延いては人材の流動化・活性化の流れを阻害する遠因にもなっていると言えるであろう。
現行の退職所得控除額の計算は、勤続20年を超えた部分は優遇度合いが高まり(20年までは1年当たり40万円、20年を超えると1年当たり70万円)、まさに年功的な仕組みとなっている。新しい時代のあるべき方向として、この1年あたりの金額を揃えるのはもちろんだが、他に例えば、(1)退職給付全体を前払いの仕組みに切り替えた場合はその前払い金額に退職所得控除が適用できるようにする、あるいは、(2)退職金に対する特別扱いをやめ、退職所得に対する税制優遇の仕組みを廃止する(引退後生活資金のための別の優遇措置を設ける)等の、何らかの見直しが必要である。退職金税制と社会保険料の仕組みは、時代の流れ(新しい就労形態 = 新しい企業と従業員の関係)に追いつけず、明らかに ほころびが目立ってきた。
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