高止まりする原油価格の行方

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2004年06月23日

  • 渡辺 浩志

OPECは6月の総会で7月から原油の生産枠を日量200万バレル引き上げ、必要に応じて8月から50万バレルをさらに上乗せすることで合意した。しかし、実際の生産量はすでに増産後の生産枠を超えている。この合意は、いわゆるヤミ増産を追認したものに過ぎず、原油価格安定化への効果は限定的と言われている。総会後の原油価格はやや沈静化したものの高い水準を維持している。

5月までは実需に加えて投機的な動きから、原油のみならずレアメタルや穀物等を含む一次産品が全般的に上昇していた。足許では中国や米国の金融引締めやその観測を受け、原油以外の一次産品の価格が一斉に低下しているが、原油価格だけは高水準を維持している。原油のような基礎素材は、需要の価格弾力性が非常に低い(需要量があまり変動しない)ため、地政学的リスク等の度重なる供給ショックの下で需給が均衡するためには価格が大きく変動する必要がある。こういった性質を逆手にとって、高騰時はファンダメンタル要因のみならず、テクニカルで些末な要因まで総動員して危機シナリオが喧伝される。このようなことから投機資金が一時的に原油に集中している可能性がある。

ただし、こういった投機は地政学的リスクがより深刻化するなどの大きな変化がない限りは一過性のものと考えるべきであろう。図を見ると原油価格と世界の景気の連動性の高さがわかる。原油価格は複雑なメカニズムで決定されるため考慮すべき事情は数々あるが、長い目で見ると結局は実需を反映して決定されているといえる。従って、今後の原油価格は世界景気の軟化と歩調を合わせる形で安定化していくと見るのが自然であろう。

とはいえ、原油価格高騰が経済に与える影響は気になるところである。原油価格の上昇は経済に対しては、自国から産油国への所得流出により国内景気を悪化させる直接効果と、世界景気の停滞により外需を減少させる間接効果がある。日本ではオイルショック以降、エネルギー利用効率は飛躍的に向上し、ある量の生産を行うのに必要な原油量は足許では1972年の3分の1となっている。従って、上の直接効果については限定的と考えてよいだろう。経済モデルでの推計では原油価格が1バレル当たり10ドル上昇したとしても実質GDPに与える影響はマイナス0.1~0.2%と軽微である。しかし、アジア諸国にはエネルギー効率が悪く原油高の直接効果が大きい国が多くある。原油価格が長期間高水準に維持され、こういった国々の景気が大きく悪化することになれば、世界経済の共振性が高まる中で外需依存度の高い日本経済は上記の間接効果の影響を強く受ける可能性はある。ただし、世界経済と原油価格の連動性から考えれば、景気悪化の中で原油価格が高止まりすることは考えにくく、間接効果についても過度に懸念する必要はないといえる。

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