年金ファンド—相克への挑戦—

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2004年05月20日

  • 飛田 公治
年金基金の昨年度決算は、国内外株式市場の回復があり、年率16%を超える好決算であったが、過去3年の運用収益の低迷を抜本的に解決した財政レベルではなく、一層の給付政策・積立政策の見直しが迫られている。

特に年金負債の適正な制御を考える際に留意すべき点は、今後運用のリスクを負担出来ない「年金受給者・待機者」と運用リスクをある程度負担出来る「加入者」という2つの集団の負債コントロールをいかに行うかがポイントとなる。換言すれば、資産運用によるリスクを2つの集団に対してどの程度にリスク量を転嫁できるかが大きな問題点とも言えよう。

現在の年金フアンドが直面している給付減額や予定利率の引き下げの健全化施策が採用された後の資産配分計画は、一般的に安全性資産(ステレオタイプに言えば債券)の比率が上昇する傾向がある。

債券保有を増やせば、負債変動のリスクは低下しボラティリティは小さくなる代わりに収益を生み出さないリスクあるいは資産が積み上がらないリスクは上昇する。この事実は、受給者のニーズを満たし且つ充分なキャッシュフローを有する企業財務であれば、債券保有によって財務リスクの低減を現出する事も可能である。しかし、安全性資産の比率を高める事は、一方では加入員サイドの満足度合いを引き下げる可能性がある。要するに、年金資産が積み上がらないと当該負債との差額は、企業の現役の従業員が負担する事になるからである。

翻って、リスク性資産の配分を増加させる事は、ボラティリティが高い株式資産等が増える事に繋がり、負債変動リスクを大きくする事になる。積み上がらないあるいは達成できない事に対するリスクは低減すると考えられるものの、その見返りとして資産の時価変動リスクは上昇する結果となり、内実は資産を劣化・消失させる可能性を有する。ついては、受給者の満足度合いを毀損する可能性を上昇させる。

以上の事実は、年金ファンドの重要な受益者である「受給者」と「加入者」にとり、安全性資産を増加させる事あるいはリスク性資産を増加させる事は、加入者の満足度合いを低減させる又は受給者の満足度合いを低減させる等、受益者相互の利益の相克を生み出し、プランスポンサーの判断をジレンマの海に放擲するのである。この問題は容易には解決出来ないものの、大事な点は、最終的に運用目標を下回る確率(加入員のリスク)と目標に対して実額として到達できない金額(受給者のリスク)との優先順位を鑑みて資産配分を選択せねばならないと言う過酷な現実なのである。

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