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出世か家庭か

2004年05月06日

鈴木 誠

多くの日本のビジネスマンの中で、一度はCEO・社長として企業の頂点に立ってみたいと願う者は少なくないだろう。ここアメリカでは、名門MBAを卒業した後、希望する企業に入社したと同時に企業の幹部そして企業の頂点を目指した熾烈極まる競争が繰り返されている。企業のトップに上り詰め、そして誰よりも早くリタイアすることを皆夢見ているのである。アメリカ企業のこうした競争社会では極端な例として、同僚と一緒にランチをとると、そのときの雑談からアイデアを得られて先を越されてしまうといった懸念やおちおちランチも取れないといった嘆きも漏れ伝えられる。

さて、こうしたアメリカの多くのビジネスマンが夢見る大企業のトップエグゼクティブの席を指名されても、本人の健康状態以外の理由によって辞退する経営者がいる。4月27日付けのウォールストリートジャーナル紙によれば、最近、剃刀等で有名なジレット社の会長兼CEOであるジェームズ・キルツ氏が、コカ・コーラ社のトップエグゼクティブの職を辞退したことを報じている。その理由は、本人の居住するNY郊外からコカ・コーラ社の本社あるジョージア州アトランタまで住居を移転することや通勤することが困難であることとしている。

米国のCEOとなれば、「出張等で少なくとも3割から4割の個人の生活時間は奪われてしまう」(Christian & Timbers)ようであるから、キルツ氏の場合、さらに個人生活へのしわ寄せが及ぶと懸念しているのである。

また、こうしたキルツ氏のようなケースは民間企業に限ったものでもない。ポリティカルアポインティーとして、PBGC(Pension Benefit Guaranty Corporation:米国年金保証公社)の総裁を最近まで務めたスティーブン・カンドリアン氏も自宅のあるボストンを離れ、ワシントンで激務をこなし、週末にボストンに帰るという生活に終止符を打った。カンドリアン氏は退任の理由として、「家族と過ごす時間を十分に確保したい」と優しい眼差しで語っていた。

「社会で自己の理想を実現するという希望」と「最愛の家族と時間を共有する」という、時として相容れない状況に置かれた場合、非常に困難な選択を迫られることとなるわけであるが、アメリカのトップビジネスマンにおいても、後者に軍配を上げるというケースがあるということは、殺伐とした印象のある米国ビジネスマン社会において5月の緑風のようにさわやかで暖かな人間性を垣間見た気がした。

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