大中華圏をめぐる動きと株式市場

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2004年04月22日

  • 櫛田 雅弘
注目される台湾総統選の再集計結果
先の台湾総統選挙(3月20日実施)では、現職の陳水扁総統(民主進歩党)が、野党連合の連戦氏を下した。しかしながら、両者の得票差が3万票弱(得票率にして約0.2%)と僅差で、無効投票も多かったことから、野党陣営は陳氏の当選無効を高等法院に訴えており、投票の再集計が行われる見通しである。

株式市場関係者の間では、対中柔軟路線を唱える野党連合が勝利すれば、中台間の政治的緊張が緩和し、中国本土と台湾がより緊密な経済関係Ⅰを築くことができるとの期待があったが、陳水扁総統の勝利、選挙前後の混乱で、選挙翌週の台湾株は値を下げた。投票再集計の日程は未定だが、その結果は、総選挙前日の陳水扁総統銃撃に対する真相解明とともに注目されるところである。

香港の「一国二制度」
台湾の独立を前面に打ち出し、2006年に新憲法の制定を目指す陳水扁総統は、最近マスコミとの談話で、香港の「一国二制度」Ⅱについて批判的な発言を行っている。香港では、07年、08年に行われる香港立法会および行政長官の選挙Ⅲで普通直接選挙の実施を求める声が市民の間で強いが、これら2選挙について定めた香港基本法付属文書に関し、4月2日~6日に開かれる全国人民代表大会常務委員会で解釈が示されることになっている。同委員会により、中央政府の賛同なくしてこうした選挙制度の見直しを行うことはできないとの判断が下されるものとみられ、民主派および市民と香港行政政府との間では緊張が高まりそうだ。

日本しかり、韓国しかり、政局の動きに株式市場がさほど関心を持たない国が多いという印象を抱くが、台湾は別格である。香港でも普通選挙の可否をめぐる動きはマーケットに大きな影響を与えることはないと考えるが、昨年7月、基本法23条で定める国家安全法の立法化に反対する50万人もの市民によるデモによって、草案は棚上げされたばかりか、その後、中国本土と香港の経済的協力関係を加速させる契機となったことは記憶に新しい。中華圏に関して、投資家は政治の動きにも大いに注意を払う必要がある。しかしながら、目先は、中央政府が、ひずみの是正と暴走の食い止めⅣを図ろうとしている中国経済の行方が最大の関心事である。大和総研香港は、現時点では、中国株に対し、中長期的には引き続き強気の見通しを持っているが、しばらくは様子見、ディフェンシブなスタンスが望ましいと考えている。

Ⅰ)03年の輸出高の約15%が中国向けで占められ、電機などの業種で中国への直接投資も増加するなど、台湾経済の中国依存度は増大。「三通」(通航、通商、通信)分野での交流拡大が望まれている。
Ⅱ)97年に香港が英国から中国に返還された際に、香港基本法(ミニ憲法)で定められるとともに、返還後50年間は既存の経済・社会システムを維持することが決められた。
Ⅲ)行政長官は、香港市民800人(財界人中心)で構成される選挙委員会によって選出。立法会議員は、一般市民による直接選挙と、各種業界による間接選挙の2通りで選出される。
Ⅳ)ここでいう「ひずみ」とは、沿海部と内陸部、都市と農村の経済成長率の格差を意味し、「暴走」とは、不動産、鉄鋼、セメントなど、一部業種で懸念される過剰投資の影響を意味する。

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