米国早期利上げ懸念に対するアジア市場の反応は過剰

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2004年04月19日

  • 由井濱 宏一
4月中旬以降予想を上回る強い米国景気指標の発表で早期の利上げ懸念が生じ、アジアの株価は軟調な動きとなっている。しかし、現時点ではアジア市場にとって、たとえば米国の雇用情勢に明るさが出てきたことは、輸出を通じたアジアの景気拡大への貢献という意味で非常にポジティブであると考える。米雇用回復→小売売上の堅調維持→(中国経由の)アジアからの輸出増加といった流れが維持されるとみられるからだ。実際、アジア主要国からの輸出と米国の小売売上高(自動車含む)の伸び率は相関が高く、米国内需の活性化がアジア地域の輸出にプラスの影響を与えやすい。一方で、雇用の見通しに明るさが見え小売売上高が大きく伸び長期金利は急上昇したが、債券市場にとってネガティブサプライズが続いたことによる一時的な上昇とみなしている。今後のインフレ率は低位で安定しており金融政策が引き締め型へと転換するにはまだ先になるだろう。シンガポールなどではややインフレ警戒的な動きが出ているとはいえ、基本的には、アジア地域での低金利政策を遂行しやすい環境である。

OPECでの減産決定や世界的な需要拡大で原油価格は高止まりしているが、これも株価への影響は限定的であると見ている。確かにイラクの混乱は原油に対する投機的取引の機会を与えると思われるがこれまでの原油価格の上昇で相当程度織り込まれたとみられ、仮に今後上昇することがあっても上昇ピッチはこれまでほど高くはないだろう。また、アジア各国の株価と原油価格の相関を見ても中長期的に原油価格の上昇→株価の下落といった明確な関係が確認できるわけでもない(00年以降の関係)。経済のサービス化の進展や製造業での業務効率化の進展などが背景にあると思われるが、現在のような環境ではむしろ株価は原油価格上昇→景気拡大→業績好調という流れを織り込みに行く可能性が強いと思われる。

市場の一部には日本経済の復活に伴い株価が米国離れしている状況で、外国人投資家が他のアジア市場の売却を進めて日本市場へ資金をシフトする可能性を指摘する向きもある。しかし実際には、米国人投資家のアジア株式の売買動向をみると、必ずしも日本株買い越し・他のアジア株式売り越し、日本株売り越し・他のアジア株式買い越しといったパターンが明確に出ているわけではない。DIRのカバーしている市場について、日本株とそれら市場の株式のネット売買動向との間の相関係数(01年1月~04年2月までの月次データ)をはじくと、韓国や台湾についてはそれぞれ0.25、0.30と強いとはいえないまでも、正の相関となっている。日本株買い越しが韓国株および台湾株買い越しと同時に発生する傾向が認められるわけだ。今回のような米国景気の回復・中国景気拡大に伴うアジア地域の景況感の好転は結局、市場を問わず輸出関連セクターを中心とした物色となって現れやすいという面もある。まして、現在のようなアジア通貨全般に先高観が強い中では、日本株に限らずアジア主要市場全体に資金が向かいやすい環境が醸成されているといえよう。

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