地価動向についての一考察

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2004年04月08日

  • 牧野 潤一
04年の公示地価が発表されたが、注目される点は東京の住宅地の地価底入れが広がったこと、東京圏や地方大都市商業地の一部が上昇してきたことの2点である。

東京圏の住宅地に関しては、ほぼ横這いから上昇した地点が昨年の2倍となっており、意外にも地価底入れは早いペースで進んでいる。これは過去5年で50万人に達する地方からの人口流入の影響が大きいだろう。商業地については、東京圏、地方大都市の中心地で上昇となっているが、背景には地価の自律調整と都市再開発があろう。自律調整については、東京都の場合、名目付加価値と法人保有土地資産をみると、その比率は80年代前半の水準まで調整しており、自律的に下げ止まりつつある。それに対して後者の都市再開発は地価を下げ止まりから上昇へと一歩前進させる触媒として機能したと考えられる。

住宅地、商業地の地価底入れは実体経済にどう影響するのであろうか。

まず住宅地であるが、90年代、家計は土地を含む保有資産額の目減りを抑えるため、土地資産の減価分を預貯金の積み増しで対応してきた。預貯金の積み増しは過去3年で31兆円にも達している。地価の底入れが広がればその一部が消費に回わると考えられる。

一方、商業地については、2つ考えられる。まず、再開発地区の地価上昇についてであるが、これは優良な不動産が不足していることの裏返しではないかと思われる。東京都心3区のオフィスビルは築20年以上前のものが5割弱を占め、スペースが広く高度情報化に対応した物件は多くない。再開発によって地価が上がっているのは、それだけ優良オフィスビルへの需要が潜在的に大きいからではないかと思われる。今後、老朽化したビルの建て直しが活発化してもおかしくないだろう。2点目は企業のB/S面への影響である。90年代の需要不足の主因は企業の投資抑制であり、その背景に地価下落・B/S調整があったが、商業地など企業保有資産が底入れするとなると、負債圧縮に回っていた余資(約20兆円)が、設備投資等の実物経済に戻ってくることになる。その規模については、過去14年の投資抑制によって設備年齢は2~3年の老朽化しており、これを挽回するとなると約100兆円の新規投資が必要との計算も可能である。

地価デフレが除々に解消に向かう中で、建設・設備投資が意外に強烈に出てくる可能性も有り得る。

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