「くたばれGDP」へと方向転換を始めた中国

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2004年02月23日

  • 肖 敏捷
新型肺炎(SARS)という未曾有の危機に見舞われたにもかかわらず、2003年の中国の実質経済成長率は前年比9.1%と、アジア通貨危機以降で最も高い伸び率を記録した。一方、改革・開放政策が導入された1978年から2003年までの平均実質成長率は9.5%に達している。景気が後退局面に入った「天安門事件」後の一時期を除き、ここ20数年間、高成長軌道を走り続けていることから、昨年の9.1%成長は決して驚くには値しないだろう。また、GDP総額でみれば世界有数の大国だが、一人当りの名目GDPはまだ世界100位以下と成長の余地は依然大きいため、今後相当長い期間、中国は世界平均以上の成長率を達成することが可能と考えられる。

一方、中国の高成長に関しては、従来も統計の信憑性という観点から海外で疑問視されてきたが、最近は意外にも国内で「成長率至上主義」に対する批判の声が拡がりつつある。高度成長のもたらした果実と比べ、支払った代価があまりにも大きすぎたのではないか、との反省がその背景にある。例えば、固定資本投資という中国経済のメインエンジンをフル回転させるため、国有商業銀行が地方政府や国有企業に資金を提供し続けた結果、金融システムは巨額の不良債権を抱えて機能不全状態に陥っている。また、沿海地域の経済成長を優先させる傾斜政策の結果、沿海部と内陸部の経済格差は一段と拡大している。中でも農村部は同じ国とは思えないほど貧困が目立っており、その惨状を暴露する「中国農民調査」というルポが最近国内で大きな反響を呼んでいる。更に、産業公害、都市公害が深刻化しており、自然破壊も急速に進んでいる。

報道によると、先日、全国の地方行政のトップを集めた会議で曾慶紅国家副主席は、GDP成長率ばかりではなく、人間、環境、社会などのバランスの取れた成長路線を目指すべきだと指示した。今後、二桁成長という快進撃には期待できないかもしれないが、「くたばれGDP」路線は、中国のみならず世界にとっての朗報であるに違いない。

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