地域通貨が国家像を左右する

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2004年02月19日

  • 経済調査部 市川 拓也
地域通貨が脚光を浴びている。近年、新たな地域通貨が急激に増えており、一説には世界に3000、日本国内だけでも300を数えるとも言われている。地域通貨の形態は実に様々で、紙幣を用いるものや通帳に貸借を記すものがあるほか、最近ではICを利用したものまで出てきている。導入目的も多様であり、WIR(スイス)やLETS(カナダ)などのように経済活性化を目的に入れたものから、コミュニティにおける相互扶助的な部分を重んじるエコマネーと呼ばれる地域通貨もある。

地域通貨は原則、利子がつかない或いは減価するという特徴をもっている。日常使用している法定通貨は銀行に預けておけば利子がつくため貯蓄手段としての価値が小さくないが、地域通貨は利子がつかない或いは減価するため、利用目的はもっぱら交換手段となる。手に入った地域通貨は即座に使用することになるため、貨幣の流通速度を高める効果がある。

プラス利子に慣れてしまった現代人にとって、減価する貨幣という発想は極めて斬新にうつるが、古く20世紀初めにシルビオ・ゲゼル(1862-1930)が「自由貨幣」としてこれを唱えている。この試みは1930年代、不況下にあったドイツ、オーストリアの限られた地域で実践され、景気や雇用に大変役立ったとされる。また米国でも注目を集め、なかでも経済学者アービング・フィッシャー(1867-1947)が「スタンプ貨幣」を推進した事実は有名である。

一方で、地域通貨は国家によって禁止されてきたという事実もある。中央集権型の国家形成を進めるにあたって法定通貨は重要であり、分権的な要素を含む地域通貨は危機意識を抱かせる存在であったのである。しかし現在の日本では、むしろ地方への分権が推し進められる状況にある。三位一体の改革を通じて如何に国から地方へ権限を移していくかが国の最重要課題のひとつにさえなっており、同様の観点から禁止される理由は全く見当たらない。むしろ、地域通貨は新たな経済システムの構築において非常に重要な役割を担うものとみられ、今後の国家像を考える上でも鍵を握る存在となる可能性があると言えよう。

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