DCF方式とマルチプル方式

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2004年01月29日

  • 間所 健司

企業価値を測定する方法としてDCF方式がわが国においても定着してきた。確かに、ファイナンス理論から企業価値を求めようとするのであれば、DCF方式により算出するのが適当である。DCF方式では3つのバリュー・ドライバーの想定によって算定結果が大きく変わる。将来CF(キャッシュ・フロー)、割引率(投資収益率)、CF成長率である。将来CFを推計するためには、評価対象会社の収益分析、コスト分析はもとより、業界動向などのマクロ的分析も必要である。いかに適性かつ実現可能性がある将来CFを予想するかがポイントとなる。その一方で、適格な割引率の選定も重要である。バブル崩壊後、足元の投資収益率が低下している。将来CFがいかに保守的であっても、低い割引率を適用すれば企業価値は高まる。経験豊富な専門家でもこの将来CFと割引率には頭を悩ませるものである。

そのDCF方式より比較的簡単に企業価値を測定する方法としてマルチプル方式(倍率方式)が知られている。DCF方式のアプローチと異なり、株式市場との相対的価値を算出する方式である。具体的には、評価対象会社と事業内容等が類似する複数の上場会社のPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などの株価指標から企業価値を測定する。PER、PBRなどは株価の割安割高を測定する手段として古くからある指標でもある。近年は、EBITDA(利払前税引前償却前利益)を用いたマルチプルも多用されている。注意しなければならないのは類似会社の選定である。類似会社の選定を誤るとその結果は数倍あるいは数十倍の差となって現れることもある。

一般に、多額の赤字決算や債務超過であるとマルチプルの計算ができないが、財務数値だけではないアプローチもある。M&Aにおいてしばしば用いられるもので、古くは、タクシー会社における登録台数や自販機ベンダーの自販機設置台数のマルチプルなどで、最近ではインターネット企業における登録会員数や利用者数、PV(ページ・ビュー)などが有名である。

DCF方式とマルチプル方式は相互のチェック機能を果たしてくれる。DCF方式とマルチプル方式の結果が大きく乖離した場合、「将来CFの推計は適正だったか?」「割引率は?」「類似会社の選定は?」など多面的な検証が可能である。両方式とも長所・短所はあるものの理論的根拠は担保されている。一方の方式に偏ることなく、両方式を相互補完的に利用することを勧めたい。

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