モータリゼーションを控えた中国に思うこと

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2003年12月18日

中国の自動車(トラック、バス、乗用車)生産が急増している。00年に200万台、02年に300万台の大台超えを達成した後、今年は11月までで405.3万台を記録。なかでも乗用車は1~11月で181万台と、1年で倍増の勢いである。

自動車、特に乗用車の需要がここへきて急増しているのは、(1)高所得者層の著しい所得向上、(2)WTO加盟による輸入関税率引き下げと競争激化を背景とする乗用車価格の下落、(3)郊外の不動産取得に伴う通勤の足の確保、などによる。北京など一部都市では、春先のSARS流行で、ヒトとの接触が多い公共交通手段を回避しようとの誘因が働いたこともある。

今後も、乗用車購入者が一部の富裕層から次の層へと徐々に拡大することにより、需要が大きく増加する傾向が続くのは間違いあるまい。

ただし、自動車メーカーが、外資系地場系を問わずに極めて意欲的な増産計画を立てているために、数年先には供給過剰がさらに激しくなるとの懸念が台頭している。最近、馬凱・国家発展改革委員会主任は、「建設中・計画中のプロジェクトを合わせると、07年には自動車生産能力が年1000万台を超えることになるが、需要見通しは700万台である」と発言し、過剰投資、供給過剰に警笛を鳴らした。

しかしながら、個人的に最も懸念しているのは、インフラやソフト面の問題が、購入意欲を抑制してしまう可能性である。卑近な例であるが、ひとつは交通渋滞の深刻化である。車の絶対数が多くなっていることが大きいのだろうが、道路の設計ミス(高架道路から一般道路へ、一般道路から高架道路へ進む車両が、交じり合うようになっている)や、無謀な運転など交通規則が守られないこと、さらには自動車と自転車が道路の一部を共有使用していることなどが、渋滞の要因の半分を占めているとの印象がある。上海市では、朝夕のラッシュ時は上海市以外のナンバープレートの車両は一部の高速道路での通行が禁止されるし、個人で車を購入する場合には、ナンバープレート代として50万円以上が請求される。北京では、ホテルやビルの短時間利用者にも駐車料金の支払い(多くの場合、15分以上1時間で2元~5元)が求められるようになった。自動車産業の育成を国家の重点として掲げながら、実際には部分的に「抑制」的な措置を採らざるを得なくなっている。

さらに、急速な需要増加に対して、エネルギー(ガソリン)や、鉄鋼を始めとした原材料(特に高品質品)を如何に手当てするかという重要な問題もある。

中国では、2010年までの自動車産業の展望を示す「自動車産業発展政策」が近く発表されるとのことであるが、モータリゼーションの本格化に備えて、ボトルネックとなりうる問題を緩和するためにも、インフラ整備・ソフトの改善、さらにはエネルギー、原材料の調達など、他産業との調和にも配慮した総合的な経済・社会政策の策定が望まれている。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登