株式非公開化という戦略

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2003年12月17日

  • 野瀬 義明

株式の上場廃止と聞いて、何が想像されるだろう。

本年に入り、上場廃止は100件を超える。その要因をみると、完全子会社化が約5割、民事再生法・会社更生法申請等が2割弱で、併せて約7割を占めている。上場廃止に関して、吸収合併、倒産といったネガティブなイメージが持たれるのはそのためだ。

しかし、近年、これまでと違う要因がみられるようになった。戦略的視点から、敢えて株式を非公開化(欧米ではゴーイング・プライベートとよく呼ばれる)する企業が出てきたのである。本年は、これまで6社(含予定)がこの戦略的な非公開化を選択し、昨年の3社に比べ大幅な増加をみせている。米国では、非公開化に転じる企業は年間100社近くに達し(トムソン・フィナンシャル調べ)、企業戦略のひとつとして定着した感がある。

非公開化を選択する企業の多くは、様々な面で上場維持に向けた必然性を失っている。例えば、低い株式流動性から満足な株価が得られない問題がある。低評価ゆえに、敵対的買収の危険にさらされる場合も多い。また、新規事業への進出など大きな意思決定を行う際、株主の同意が得られず、売り浴びせられるなど不安定要素が危惧される。実際、非公開化に踏み込んだ経営者の多くは、少数の理解ある株主のもとで迅速に戦略を遂行したかったと述べている。

非公開化は、投資ファンドの支援を得たMBO(マネジメント・バイアウト)によるものが一般的だ。多くは、中長期的には再上場を目指している。非上場期間に抜本的な事業の再構築をすすめ、企業価値を高め、生まれ変わった姿で市場に評価を問う。今月19日には、このスキームで再上場を果たす初めての企業が誕生する。神戸市にある表面処理加工のトーカロである。同社はJASDAQに上場していたが、2001年8月にMBOを実施し、上場廃止となっていた。再上場後の時価総額は、MBO前に比べて数倍となることが予想され、成功事例になるとみられている。これを機に、戦略的な非公開化がますます注目されるだろう。株式市場活性化策として、期待が高まるかもしれない。

もちろん、安易な非公開化があってはならない。上場会社として果たすべき役割と責任を認識し、まずは既存の株主の期待に応える道を模索すべきだ。また、わが国における戦略的な非公開化は始まったばかりである。一体どのような影響がもたらされるか、十分な見極めも必要となる。

以上を考慮したうえで、なおかつ企業を取り巻くすべての利害関係者(株主、経営陣、従業員、債権者等)の賛同が得られるのであれば、株式の非公開化は取りうる手段として十分検討に値するのではないか。

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