拡大する中国の「産学連携」

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2003年11月12日

  • 村田 素男

中国で産学連携が活発である。産学連携といっても、大学の研究を既存の民間企業が活用するというよりも、大学教員による起業、「大学発ベンチャー」(校弁企業)が中心である。校弁企業の数は、統計によっては2,500とも5,000とも言われるが、日本の大学発ベンチャー531社(03年3月末)と比較すると、驚異的な数である。しかも、大学発ベンチャーが既に中国を代表する上場企業に成長している。北京では、中国政府の大学評価(03年)で1位となった精華大学出身の清華同方(パソコン等IT機器)、同2位の北京大学出身で清華同方のライバル関係である北大方正、大連では東北大学出身の東軟集団(パソコンソフト)などである。一方で、日本の大学発ベンチャーは東証マザーズなど新興市場に3社程度が上場したに留まる。

校弁企業は、80年代後半に大学に対する国家予算を半減した代わりに、大学教員の兼業を認め、大学が自前で収入を得るように求めたことに端を発する。政府もインセンティブを与えて産学連携を促進してきた。会社設立後3年間の法人税免税、技術移転成果の一部を報償金扱い、外資による設立から5年以内の再投資には納付済み所得税の最大40%還付などである。さらに、政府と大学が全国にハイテクパークを整備して起業を後押ししている。精華大学と北京大学のハイテクパークを中心とする「中関村」は中国IT産業の集積地として世界的に名の知れた存在となった。精華大学とその関連企業などを中心に、大手の米国企業、日本企業とも、続々と提携関係を結んでいる。

急拡大しつつある中国の「産学連携」であるが、課題も残されている。第1に、模倣品の氾濫に代表されるように、知的財産権保護が不十分である。大学発ベンチャーの阻害要因になりかねない。第2に、大学教員が起業した場合、中国の大学では利益相反を防止するための規定はほとんど存在していない模様である。今後問題が出ないという保証はどこにもない。第3に、大学教員の経営能力が問題になっているケースも多い。中国では優れた経営能力を持った専門経営者の層は未だ薄いと言わざるを得ない。解決策として、各大学とも外資との連携強化に期待寄せている。最後に、中国の大学で理工系の実力については日本企業の間では「未だよくわからない」と言われている。IBMはじめ、米国IT大手が将来性を見込んで中国に研究所を設ける一方で、基礎研究の能力には疑問を投げかけるむきが多い。利益を上げやすい応用研究に偏れば、基礎研究が空洞化して長期的には問題が生じることになろう。

課題も多い中国の「産学連携」であるが、大きな可能性を秘めていることは間違いない。かつて、台湾が米国帰りの技術者や留学生を呼び込んで電子産業が根付いたことは知られている。ただ、そこで目指したものは先端技術ではなく、成果のスピードを重視した「既存技術の量産研究」であった。中国は、同様に留学経験者から先端技術を取り入れつつ、国家の威信にかけて、それ以上のものを目指していると見てよかろう。

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