英国で再び高まるストライキへの懸念
2025年10月01日
2025年9月、ロンドンの地下鉄では大規模なストライキが行われた。地下鉄の運行は6日間にわたって削減され、そのうち4日間は地下鉄の大部分が運休となり、人々はバスや自転車、徒歩などの代替手段での移動を余儀なくされた。また、ストライキを受けて開催が延期されたイベントもあり、多くの人に不便を強いたのみならず、経済的にも少なからず悪影響があったとみられる。
筆者がロンドンに住み始めてから、地下鉄の大規模なストライキは2度目であり、前回は2023年3月に実施された。2024年にもストライキの予告はあったものの、直前に回避されたため、実際に行われたのはおよそ2年半ぶりということになる。前回のストライキが行われた2023年を思い返すと、地下鉄のみならず、郵便局や病院、学校など、様々な場所で頻繁にストライキが行われていた。ニュースでも連日、ストライキが取り上げられていたことを思えば、今回同じように地下鉄でストライキが行われたとはいえ、英国社会全体として2023年ほどの重苦しさはない。
もっとも、しばらく落ち着いていたストライキが再び広がる可能性は、徐々に高まっているように見受けられる。ストライキに関する統計は、まだ2025年7月分までしか公表されていないが、7月のストライキによる労働喪失日数は6月の2倍以上に増加し、1年1ヵ月ぶりの大きさとなった。2022年~2023年頃と比べればまだその水準は低いものの、9月の地下鉄のストライキ以前の段階で増加の兆しが見られていた。
こうしたストライキ再燃の兆しは、インフレ率の動向が強く影響しているとみられる。2022年のピーク時に前年比+10%を上回った英国の消費者物価指数は、2024年9月には同+1.7%まで伸びが鈍化したものの、その後、再び上昇ペースを速めている。最新の2025年8月分では同+3.8%と、2024年1月以来の高さとなった。他国との比較でも、英国のインフレ率はG7の中でも最も高く(2025年8月時点、出所:英国国家統計局、米国労働省、カナダ統計局、Eurostat(ドイツ・フランス・イタリア)、総務省)こうした状況が労働者による待遇改善への要求を強める要因になっている可能性が高い。
英国における高インフレの要因の1つは、労働党政権の政策による影響である。労働党が実施した車両税の引き上げや、私立学校の学費に対する付加価値税の賦課などが直接的にインフレ率を押し上げた。加えて、企業に対する国民保険料負担の引き上げなども一部、販売価格に転嫁されているとみられる。
制度変更に伴うインフレ率の押し上げは、時間を追うにつれて剥落していく公算が大きい。だが一方、財政悪化に苦しむ労働党政権は、財政規律遵守のために2025年11月に公表予定の秋季予算でさらなる増税を実施する可能性が高いとみられている。仮に追加増税によって一段とインフレ率が押し上げられることになれば、国民の不満は政府のみならず、雇用先にも向けられる可能性があるだろう。当然ながら、経済活動が停止されるストライキの増加は英国経済にとってネガティブな要因であり、その動向を注視していく必要がある。
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- 執筆者紹介
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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
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