嘱託再雇用か定年延長か。定年延長が進まない理由とは?

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2025年09月17日

  • データアナリティクス部 主席コンサルタント 市川 貴規

新入社員の配属は、会社員としてのスタート地点である。では、そのゴールはどこにあるのか。「会社員生活のゴールは60歳定年退職」と画一的に考えられてきた時代は過去のものであり、現在では、所属する企業により様々な形で60歳を迎えることになる。企業の人事担当者は、嘱託再雇用を継続させるのか、それとも定年延長に移行するのか、その選択に悩んでいる。

現状、高年齢者の雇用に関する法律上の枠組みは、65歳までの雇用の義務化 (嘱託再雇用、定年延長、定年制度の廃止のいずれかの選択)と70歳までの雇用に準ずる措置の努力義務が課せられている。社会の大きな流れとしては、「嘱託再雇用」から「定年延長」への切り替えであるが、ここ数年その流れが停滞している(※1)。なぜ定年延長は進まないのであろうか。

嘱託再雇用では、60歳で雇用契約が終了となり(定年退職)、退職金が支払われ、会社員生活に一旦区切りがつく。その後、勤務希望者は新しい人事制度(嘱託再雇用)の枠組みの中で働き始めることになる。企業は自社の財務状況に基づいた処遇水準で制度設計を行うことができ、さらに個人の能力や実績に応じたメリハリのついた処遇も自由に行うことが可能である。一方、定年延長は、60歳以前の人事制度と連続性・継続性を求めるのが設計の根幹であり、そのため組織の高齢化や制度の硬直化に陥りやすく運用の柔軟性が低い。さらに増加する人件費をコントロールするために、60歳以前の人事制度もセットで見直すケースも多く、「人的資本経営」や「ベースアップ」等の各企業が対応しなければならない人事課題が山積している現状を踏まえると、定年延長導入へのハードルはより一層高くなる。そのような背景が、定年延長への切り替えが進まない大きな理由として考えられる。

従業員の立場からすれば、厚生年金の支給開始年齢が原則65歳になった今、65歳まで雇用が継続維持される定年延長の導入を希望する声も多いだろう。65歳定年社会に向けて、政府による法改正などのさらなる後押しが求められるところである。また、企業側も「定年延長=コスト増」の観点のみで考えるのではなく、定年延長が、「社員のモチベーション」、「労働生産性」、「企業価値」のすべてを向上させ、企業の成長ドライバーになる良い機会であると捉え、その検討準備を早期に始めておくことが望ましい。定年延長は、超高齢化社会や労働力人口の減少といった複雑な社会課題に対する、実効性の高い解決策の一つとなり得る。企業・政府がそれぞれの立場から積極的に取り組むことが求められる。

(※1)令和6年度において定年延長実施企業は28.7%:厚生労働省「高齢者雇用状況等報告」の集計結果より

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市川 貴規
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