中国:なぜ、こんな時に「倹約令」なのか?

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2025年09月10日

中国の消費が鈍化している。2025年7月の小売売上は前年同月比3.7%増(以下、変化率は前年同月比)となり、5月の6.4%増、6月の4.8%増から一段と減速した。

主因のひとつが6月以降のレストラン(飲食)収入の急減速である。レストラン収入は5月の5.9%増から6月は0.9%増、7月は1.1%増にとどまった。

契機となったのが、5月2日に党中央・国務院が発表した修正「党・政府機関節約奨励・浪費反対条例」(以下、修正「倹約令」)だ。「倹約例」は2013年11月18日に綱紀粛正と質素倹約の徹底を目的に発表されたが、今回の修正「倹約例」では、公務における接待について、高級料理やたばこ、酒類を提供してはならない、などの禁止項目が追加されている。行き過ぎた忖度が蔓延るのが習近平政権の特徴のひとつであり、ただでさえ市民の間で節約志向が強まる中で、接待需要も減退している可能性が高い。

同様の状況は2013年~2014年にかけても発生した。2012年11月の中国共産党第18回党大会後に総書記に就任した習近平氏は同年12月に「八項規定」を発表して、綱紀粛正を強化した。「八項規定」とは、(1)視察の簡素化、(2)会議の効率化、(3)書類・文書の簡潔化、(4)訪問活動の規範化、(5)警備の改善、(6)報道の改善、(7)文書発表の厳格化、(8)倹約節約の励行、であり、「三公消費」(公費による飲食、公用車の私的流用、公費による出張・旅行)が厳格に抑制された。

当時、四半期に一度は中国を訪問し政府系エコノミストとも交流を深めていた筆者は歓迎の宴を開いてもらうことがあった。綱紀粛正の折には、ふかひれ・アワビ・ツバメの巣などの高級食材が卓に並ぶことはなく、白酒などの高級酒は持ち込みが行われていた。これは、交際費申請の際に、明細を全て添付する必要があったためである。中国の料理名は素材・調理法・味付けが分かるものが多く、効果はてきめんであったと思われる。

綱紀粛正は多分に政治的な側面がある。2025年10月には第20期中央委員会第4回全体会議が開催され、2026年~2030年に実施される第15次5カ年計画について議論することが決まっている。こうした中で、一部では重要な人事が発表されるとのうわさもある。真偽のほどは不明であるが、政治が経済に優先するというのが、中国リスクのひとつであることは常に認識をしておく必要がある。経済面からみれば、節約志向が高まる中で、なぜ今、修正「倹約令」なのか、理解に苦しむ。政策は迷走しているといわざるを得ない。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登