インフレ局面を迎えた予算編成の意味
2025年09月08日
国の2026年度予算案編成に向けた各省庁からの概算要求額が、一般会計で過去最大の122兆円台になった(要望額を含む)。10年前の2016年度が102兆円、20年前の2006年度が85兆円だったから(要求額のほか、各種要望額や加算を含む)、予算の膨れ方に目を見張るばかりである。
もちろん概算要求は文字通り要求であって、今後、内容の精査が時間をかけて行われる。今回、裁量的経費については重要政策を推進するために前年度当初予算の2割増しの要望が認められたほか、もともと防衛費や子育て・教育予算は大きく増やすことが既定路線である。金利が上昇しているため、利払い費の予算も当然増やさなければならない。
そして、来年度予算を取り巻く環境として重要なのは、インフレ局面にあることだろう。加藤勝信財務大臣は2025年8月29日の記者会見で、「まさにこれまでのデフレではない新しいインフレの局面に入ってきた中での予算編成」と述べた。端的に言えば、世の中全体の物価上昇や賃上げを予算に反映させる必要があるということだろう。
では、これまでの長期デフレの中で逆の認識、つまり物価や賃金が上がっていないなら歳出を小さくするという考え方が対称的に示されてきただろうか。それは否であり、ここ約10年は、歳出の「目安」と呼ばれる名目金額の大枠を設定することで予算編成が続けられた。また、「目安」が財政の規律維持になった(予算の膨張を抑制した)とも説明されてきた。
大して増やさないとしながら名目額を減らさずに歳出総額を決めてきたということは、デフレやゼロインフレの基調の下では実質的に増やしたことを意味する。人口が減少していることも考慮すれば、1人当たりではいっそうの増額を続けてきた。デフレギャップが大きい場面での実質的な財政拡大は是認できたかもしれないが、どこまで拡張させたのか、その拡張が成果を生んだかは必ずしも明らかになっていない。
そうした検証なしに、今度はインフレだから名目の歳出を増やさなければならないという話になっている。これはインフレは財政を健全化させないと述べているに近い。もし「インフレ局面」ということを錦の御旗に歳出を鷹揚に拡大させれば、さらなるインフレと金利上昇を招きかねない。重要であるのは、インフレ局面だからこそ、政府サービスの質と量を維持・向上させるために、政策の効率性や生産性を高める歳出改革を加速することである。
財政の目的は、家計や企業の所得や支出を増やすための政策を遂行することであり、政府の支出そのものを増やすことではない。また、政府の収支尻がどうなるかは結果にすぎず、家計の消費や企業の投資など民間の支出が増えなければ、政府財政の持続性は高まらない。物価が上がっても下がっても政府サービスが必要十分に提供される財政の仕組みづくりは、デフレよりもインフレの環境下の方がはるかに進めやすいはずだ。
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