AIをバーチャル役員として活用する経営戦略
2025年09月01日
近年、日本企業において取締役会にAIを導入する動きが活発化している。キリンホールディングスでは、多様な人格を構築したAI役員が経営戦略会議で意見を提示し、三谷産業では、「AI社外取締役」の起用が発表されるなど(※1)、AIが単なる業務効率化ツールから企業の進むべき方向性を示す存在として進化している。今後、多くの企業においてAIに取締役の役割を担わせることは可能だろうか?
日本企業においては多様なバックグラウンドを持つ社外取締役の候補者不足が課題となっており、AIは新たな解決策となり得る。AIは人間の意思決定を代替するものではないが、より客観的かつ多角的な視点を経営にもたらすための強力なパートナーになる。
例えば、提供できる価値として以下のようなものが考えられる。
- ①客観的な事実に基づいたデータドリブンな洞察
- 人間では処理しきれない膨大なデータを瞬時に分析し、経営の意思決定に客観的根拠を提供する。
- ②見落とされがちな潜在的リスクの発見
- 人間の主観や経験によるバイアスに左右されず、マーケットの微妙な変化や競合の動向から複数のシナリオを提示し、将来のリスクを早期に検知する。
- ③取締役会の多様性の確保
- 特定の専門分野に特化したAIを社外取締役に迎えることで、社外取締役の候補者不足という課題を補うだけでなく、取締役会としてIT・DXや財務資本戦略、ESG、グローバル経営など特定の専門的な知識を拡充することが可能である。
AI時代において、社内取締役や社外取締役に求められる役割も変化している。AIがデータドリブンな洞察を提供する一方で、取締役には倫理観や未来へのビジョンといった「人間ならではの感性」に基づいた意思決定が求められる。
事実やデータに基づいた客観的かつ俯瞰的な視点を強みとするAI役員と、社内取締役の事業への深い理解、そして社外取締役の多様的かつ独立した視点が組み合わさることで、より実効的なガバナンスが期待できる。まずは、「自社の経営課題を解決するために、AIにどのような役割を担わせるべきか?」という問いから始めることが、AIを真に価値ある存在へと進化させる第一歩となる。
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コーポレート・アドバイザリー部
主任コンサルタント 内山 和紀