ROEの持続的向上のための資本規律の重要性

資本コストを真に意識した財務戦略への道

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  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 太田 達之助
  • コーポレート・アドバイザリー部 上原 彩佳

サマリー

◆日本企業の利益は過去10年間でほぼ倍増しているが、平均ROEは10年前の約8%から1%強しか上がらず10%を目前に足踏み状態が続いている。これはROEの分母である株主資本等も大きく増加しているためである。

◆ROEの国際比較を行うと日本企業は米国企業などに劣後している。日米のROE格差は、2014年頃までは売上高純利益率の違いでほぼ説明できたが、その後の10年間でROEの分母である株主資本等の要因も大きくなってきている。仮に過去10年間における日本企業の株主資本等の増加率が米国企業並みに低かったとしたら、2023年度の平均ROEは14.6%になっていたことになる。

◆日本企業は売上高純利益率と財務レバレッジに強い負の相関関係がある。これは平均ROEを高める牽引役となるべき高収益企業が、株主資本等を蓄積するからだといえる。

◆多くの日本企業は配当性向や総還元性向を一定水準としているため、稼ぐ力が高まれば内部留保も高水準となり、ROEが上がりにくい資本構成になりがちである。日本企業の稼ぐ力が徐々に高まるなかで、ROE10%の壁を大きく越えていくためには、各企業が自社にとって最適な資本構成を意識した資本のコントロールに取り組む必要がある。

◆日本企業に馴染みの薄かった資本のコントロールはどのような基準で行うべきなのであろうか。財務の安全性と資本効率のバランスを取ることが基本であるが、企業規模と成長ステージ、目指すべき事業ポートフォリオの方向性、事業の安定性など考慮すべき点は多い。

◆日本企業が資本効率より財務安全性を重視してきた要因として、株式持ち合い構造によって株主やエクイティ投資家からのガバナンスが全く効いていなかったことが挙げられる。日本企業に資本のコントロールや資本効率向上を促すためには、ROEやTSR(株主総利回り)などエクイティ投資家目線での評価指標がより強く意識されるようになることが望ましい。

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