生成AIによって大変革期を迎えている米国金融業界

RSS

2025年05月14日

2024年(昨年)10月に米国の大手金融機関を訪問する機会があった。そこでは生成AIの活用が金融機関の営業スタイルを大幅に変革していた。

改めて生成AIを定義すると、文章、画像、音声、動画等のデータ形式を自律して生成することが可能なAI技術となる。ただし、生成されたデータ形式のアウトプットは、生成AIに対する指示の適格性に左右され、一回の指示で質の高いアウトプットを得るのは難しく、通常は反復する処理が必要となる。生成AIはイテレーション(反復処理)の機能(=学習機能)を既存のシステムに統合させることで、最終的には質の高いアウトプットが創出できる。つまり、人間しか対応できなかった複雑な処理(例えば、顧客のニーズに合わせたカスタマイズなど)を生成AIが代替できることを意味する。生成AIの短期間での進化の背景には、大規模言語モデル(大量の文章の学習によって、人間の言語を理解し、その結果、文章を生成、翻訳、要約、質疑応答など、さまざまな言語処理タスクを実行するモデル)等の技術基盤が優れていることがある。これらに、データ処理パフォーマンスの飛躍的な向上、新しいアプリケーションの台頭、生成AIへのアクセス障壁の低下が加わって、生成AIに対する指示の質が向上し、価値創造と効率性向上の機会が創出されているのである。これらの生成AIの特性を踏まえた上で新しい「人」の役割を特定して、新しい営業スタイルを確立する必要がある。

一方、生成AIの導入には膨大なコストがかかる。このため、コストを負担してでも付加価値を高めようとする金融機関と、従前からの営業スタイルを維持しようとする金融機関とに分かれる傾向があるが、米国の金融業界では前者に該当する金融機関が多い。ここでの従前からの営業スタイルとは、営業員の裁量に大きく依存するスタイルである。例えば、担当する各顧客の財務状況、ライフイベント、個人的なライフスタイルや趣味嗜好を把握し、それらから得られる営業員の主観的な洞察によって信頼関係を築くことで、将来の金融商品・サービスの収益を得ようとするものである。ただし、このアプローチでは、顧客のデータに基づく客観的な視点に欠けるため、金融商品・サービス提供の際に誤った営業員の解釈が生じやすく、組織的な顧客ニーズの把握にも問題が生じやすくなり、生成AIを導入してもコスト負担が大きくなるだけではないだろうか。

これを解決するために、米国の大手の金融機関の多くは、かねて構築してきた量と質を兼ね備えた顧客属性データベースを活用し、生成AIによる顧客データの分析を行っている。これにより、少ない営業員のリソースを効率的に活用し、瞬時に高度な分析とそれに基づく個々の顧客の金融商品に対するニーズのパーソナライゼーション(個々人向け最適化)が可能となってきている。その一方、日本では、これらの生成AIによる高度な分析を可能とするための十分な顧客属性のデータベースの構築をしていない金融機関が多いと見受けられる。従来の営業スタイルで活用している中途半端な顧客のデータベースのままでは、生成AIの導入という手段と、顧客のニーズの定量的なパーソナライゼーションという目的が合致せず、期待する成果が生まれないのではないだろうか。日本の金融機関においても、米国の金融機関のような営業スタイルの変革の取り組みが増え、顧客と金融機関のお互いがメリットを享受できる、ウィン・ウィンの関係を築くことを期待したい。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢