チェンジマネジメントの五原則
2025年04月30日
チェンジマネジメント、略してチェンマネ。いつの時代も「激動」の経営環境のなか、「日本的経営の崩壊」におびえながらも「グローバル化」を標榜し、「非連続」な変化を強いられる日本企業に求められている組織変革アプローチ。そう言えばお分かりいただけるだろうか。もちろん正解は存在しないし、他社事例を真似すれば事足りるわけでもない。ただプリンシプルのようなものはある。順不同で紹介しよう。
① ボードメンバーから3.5%クラブメンバーへ
報告と承認に終始する取締役会や経営会議からは何も生まれない。そう言うと叱られそうだが、変革を主導するメンバーの選定に際しては、ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェス氏提唱の3.5%ルールを参考にしたい。全体の3.5%、つまり社員数1,500名の企業のチェンマネなら、53名が規模的には適切だ。トップ自らが任命し、一人ひとり丁寧に面談して役割を正確に伝え「3.5%クラブ」を立ち上げよう。
② ForecastingからBackcastingへ
現状分析からの積み上げ(Forecasting)ではなく、理想からの逆算思考(Backcasting)がすべての出発点。オーバーアナリシスやベストプラクティスからの果実は少ない。解像度を上げて言語化し映像化することでゴールとしての「ありたき姿」をリアルに考えていく。良くも悪くもトップマネジメントの妄想力がカギだ。
③ Yes butからYes andへ
さすがに最近は「No because」(ダメだ、なぜかと言うとね…)を連発する人は少なくなった。しかし「Yes but」(良いアイデアだし、期待しているよ。でもね、そもそも…)がやはり多い。そう感じている人は多いはず。チェンマネに際しては「Yes and」(いいね、それやろう。こんなこともできるし…)を口癖にしたい。Yes andがアクションの引き込み線となり、アクションがYes andをより強くする。この好循環を目指そう。
④ 粘土から砂へ
粘土とはいわゆる抵抗勢力のこと。粘土層とも言う。水で溶かすには時間がかかるし、穴をあけてもすぐふさがる。そして変幻自在に形を変えながら抵抗を試みる。だが、その抵抗の裏には変革への潜在的な問題認識があることを忘れてはならない。強烈な粘土層(抵抗勢力)が「そういうことなら」と水はけの良い砂(チェンマネのサポーターでありエバンジェリスト)に変わるとき、一気に変革は進む。「粘土こそ仲間」そう肝に銘じ対話を重ねよう。
⑤ 会社から仲間へ
社員一人ひとりが利益追求の組織としての企業の構成員としてではなく、個として仲間として認め合い、協力し合うコミュニティのメンバーになることが欠かせない。名和高司氏は著書(※1)のなかでそう強調する。チェンマネの先には会計上の利益だけでなく、社員の幸福や成長、そしてその数珠つなぎがある。仲間とのエンゲージメントがチェンマネの出発点だ。
「うちの会社、チェンマネやるってよ」そんな声を小耳に挟んだら迷わずご連絡を。
(※1)「経営改革大全」(名和高司著、日本経済新聞出版社、2020年)
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コンサルティング企画部
主席コンサルタント 林 正浩
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