人的投資における次のテーマは「介護」
2025年03月14日
「令和5年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)によると、男性の育児休業等取得率は30.1%と3割を超えた(女性は84.1%)。若年層の多くが仕事とプライベートの両立を意識し、育休を取得したいと考えていることから(※1)、仕事と育児を両立できる希望の働き方が実現しつつあることは喜ばしいことである。
政府は、育児・介護休業法や次世代育成支援対策推進法を改正して、仕事と育児の両立を制度面で支えるとともに、企業の働き方改革を後押しすることで、安心して子育てできる社会の構築を目指してきた。企業も、育児休業を取得しやすい環境を整えるなど職場のワーク・ライフ・バランスの推進を通じて、生産年齢人口が減る中でも多様な労働力を確保してきた。その結果、「出産・育児」を理由とした離職者数は、2023年までの10年間で半減した(厚生労働省「雇用動向調査」)。
一方、育児と比べて取り組みの遅れが目立つのが、仕事と介護の両立支援である。2022年度の介護休業等取得率は、男性が0.04%、女性が0.1%にとどまる(厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」)。働きながら育児をしている人が682万人なのに対し、働きながら介護をしている人が274万人であるとはいえ(※2)、取得率の差は大きい。そのためか、「出産・育児」を理由とした離職者数が減少傾向にあるのと対照的に、「介護・看護」を理由とした離職者数は高い水準を維持したままである。
いわゆる団塊世代がすべて後期高齢者となる2025年を迎え、今後、介護をしながら働く人の増加が見込まれる。担い手の多くが50歳以上の働き盛り世代であり、介護による離職の増加やパフォーマンスの低下は、企業活動にもマイナスの影響を及ぼすリスクといえる。介護に直面しても安心して働き続けられる環境整備が急務である。
2025年4月から施行される改正育児・介護休業法は、介護離職防止のための雇用環境整備や、介護離職防止のための個別の周知・意向確認等の実施を企業に義務付ける。企業には、これらへの対応はもちろん、実効性の高い施策の実施が求められる。特に、適切な両立支援制度の利用につなげるため、アンケートや聴取による実態把握や、認知度を高めるための研修は重要だ。
仕事と介護の両立支援は、健康経営度調査の設問にも追加されるなど、積極的に取り組む企業が評価される仕組みの構築も進められている。育児との両立支援が定着してきた今、仕事と介護の両立支援を人への投資の次なるテーマと捉えて、両立できる環境づくりを推進する企業が注目されるだろう。
(※1)厚生労働省「『若年層における育児休業等取得に対する意識調査』(速報値)」(2024年7月31日)
(※2)有業者のうち仕事が主な者を対象とした(総務省「令和4年就業構造基本調査」)。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
- 執筆者紹介
-
政策調査部
主任研究員 石橋 未来