トランプ大統領による一連の関税政策、当の米国民は冷ややか?
2025年03月07日
トランプ大統領による「関税攻勢」が止まらない。
1月20日の就任以後、トランプ大統領は、関税政策として、①メキシコ・カナダからの輸入に「25%」(3月4日発効予定)、②中国からの輸入に追加で「10%」(2月4日発効)、③鉄鋼・アルミ製の輸入に「25%」(3月12日発効予定)、④「相互関税」(※1)導入の示唆(早ければ4月2日に発効か)、⑤自動車の輸入に「25%程度」の示唆(早ければ4月2日に発効か)、⑥半導体・医薬品の輸入に「25%かそれ以上で開始し、1年かけて大幅に引き上げ」の示唆(時期不明)、⑦銅製品の輸入に対する追加間税の示唆(税率、時期は不明)、⑧欧州連合(EU)からの輸入に「25%」の示唆(時期不明)、⑨中国からの輸入にさらに追加で「10%」(3月4日発効予定)、といった方針を矢継ぎ早に提示している(※2)。
これらの方針の影響は非常に大きいことが容易に見込まれることから、日本をはじめ、米国との貿易関係が浅からぬ諸外国は、その対応策に追われている。
トランプ大統領はこれらの関税政策を、貿易赤字の解消手段、貿易以外の目的をも広く包含する交渉手段、2025年末に期限を迎える「トランプ減税」の更新に必要となる財源確保のための手段として考えているだろう。
それでは、当の米国民は、トランプ大統領による一連の関税政策についてどのように受け止めているのだろうか?
CNN/SSRSのアンケート(※3)によると、一連の関税政策に対する賛否では、賛成が34%、反対が49%、という結果であった(※4)。
こうしたアンケート結果の背景を探ると、現在進行形で米国民を苦しめている物価高の存在がある。
同アンケートによると、「トランプ大統領は日用品の値下がりに向けた取組みを十分に行っているか?」という問いに対して、「不十分」という回答が62%を占めている(※5)。母体を共和党支持者に限っても、「不十分」という回答が半数近い47%にのぼる。
そして、Washington Post/IPSOSのアンケート(※6)によると、「メキシコ・カナダ・中国に対する関税政策は、国内の物価上昇をもたらすか?」という問いに対して、「もたらす」という回答が69%を占めている。
この2つのアンケートによれば、トランプ大統領による一連の関税政策は物価高の解消には寄与しないと考えられていることがわかる。そしてこのことが、34%という低い支持率に反映されているといえよう。
関税は国内の輸入業者が自国の政府に対して支払うものであり、仮に輸入価格に変更がなければ、関税の分だけ輸入コストが上昇することになる。この上昇したコストを誰が負担するのか、であるが、日用品のような安価で利益率の低い商品であれば、販売価格に転嫁される可能性が高いという見解がある(※7)。そうした見解を前提とすると、上記のアンケート結果は至極自然なものと考える。
トランプ大統領は、2月14日のホワイトハウスでの記者会見にて、こうした懸念を前提とした記者からの質問に対して、「関税により、短期的な物価上昇はありうるが、時間とともにそれは解消し、結局のところ物価は下がる。国内生産が増えることで、生産コストが下がるからだ」といった趣旨の回答をしている。
トランプ大統領によるこうした説明は、本稿で紹介した2つのアンケート結果に大きな影響を持たなかったようだ。
(※1)外国が米国に課している関税が米国より高い場合に、その外国に対する関税を同率まで引き上げることをいう。
(※2)本稿執筆時点(2月27日)
(※4)「どちらでもない」という回答が18%であった。
(※5)「十分(妥当)」という回答が27%、「度を越えている」という回答が11%であった。
(※7)「米シンクタンク、トランプ氏主張のベースライン関税の米国経済への悪影響を懸念」(日本貿易振興機構(ジェトロ)、2024年10月21日)
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- 執筆者紹介
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ニューヨークリサーチセンター
主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光