2025年の実質賃金はどうなる?
2025年01月27日
実質賃金の上昇が定着するかどうかは、2025年の日本経済を展望する上での重要なポイントだ。
実質賃金とは、物価変動の影響を除いた平均賃金で、毎月勤労統計調査(厚生労働省)の実質賃金指数が注目されることが多い。実質賃金指数は24年5月まで26カ月連続で前年比マイナスだった。6、7月は夏季賞与の増加もあってプラスになったものの、8月から10月までマイナス圏で推移した(11月は再びプラス転換)。
一方、四半期別GDP速報(内閣府)における実質雇用者報酬を雇用者1人あたりで見ると、24年4-6月期に前年比プラスに転じた。直近の7-9月期はプラス幅が拡大し、実質賃金指数の伸び率を1.1%ポイントほど上回った(下図)。
雇用者報酬は全ての業種・企業規模を対象とする一方、毎月勤労統計調査では5人未満の事業所や公務などの業種が対象外である(※1)。また雇用者報酬の実質化に使用される家計最終消費支出デフレーターは、直近の家計の消費行動を反映している。実質賃金指数で使用される消費者物価指数は基準年(現行は20年)の消費バスケットで固定されているため、例えばある商品の価格が高騰したとき、その購入量を減らしたり代替品にシフトしたりする行動は消費者物価指数に反映されない。実質雇用者報酬は経済実態をより反映した賃金指標であり、その意味において実質賃金は24年度前半に上昇基調へと転じた可能性がある。
1人あたり実質雇用者報酬は24年10-12月以降も前年比プラス圏で推移するとみている。公務員給与が12月にかけて大幅に引き上げられたことに加え、25年の春闘賃上げ率は前年から減速するものの高水準となる公算が大きいからだ。人材獲得競争の激化や、このところの企業の賃上げに対する積極的な姿勢などを踏まえると、25年の春闘賃上げ率は前年並みの水準で着地することもあり得る。
もっとも、減速が見込まれる物価上昇率が想定外に加速し、実質賃金が下振れするリスクには注意が必要だ。人件費の増加で企業の価格設定行動が積極化し、サービスを含む幅広い品目の価格が大幅に上昇する可能性がある。また、米トランプ新政権の政策などによって日米金利差の縮小が進まず、結果として円安ドル高が大幅に進み、国内物価が大きく押し上げられることも考えられる。実質賃金が物価動向に左右されやすい状況は、25年も続くだろう。
(※1)このほか、毎月勤労統計調査では2018年1月から常用労働者30~499人の事業所の調査についてローテーション・サンプリングが導入され、毎年1月時点で段差が生じている。そのため四半期別GDP速報では、前年12月までの賃金水準に合わせるように1月以降の賃金水準を調整し、推計を行っている。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
シニアエコノミスト 神田 慶司
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