税制をどうしていこうとしているのか
2024年12月09日
第二次石破内閣は国会における少数与党の下で発足し、厳しい国政運営を余儀なくされている。少数与党は政策ごとに野党の一部から合意をとりつけ、あるいは本意でない妥協をしないと物事を進めることができない。にわかに巻き起こった「103万円の壁」の騒動はその典型だろう。
衆院の議席を4倍に増やした国民民主党が基礎控除などの増額を主張しているためだが、自公政権は2017年度の税制改正以降、個人所得税の各種の控除の見直しを順次進めてきていた。経済情勢に合わせた控除額の調整は検討されてよいだろうが、与党の過半数割れがなければ、このタイミングで議論の俎上にのせられることはなかったのではないか。
就業調整の原因としての「壁」問題は、社会保険料に関する106万円や130万円の基準の方がはるかに重要である。今後の税制を考える上でも、ことさら「103万円の壁」だけを議論するのはあまりにも部分的だ。
10月の総選挙では自民党や公明党、立憲民主党以外の多くの政党が、消費税の減税や廃止を公約に掲げてもいた。働き方やライフスタイルが想像以上に多様化し、人口の4分の1が75歳になっていくと見込まれる日本において、いったい税制をどうしていくべきと政治は考えているのだろうか。
OECDの統計によると、日本における国・地方の歳入(税と社会保険料)のGDP比(2022年、以下同じ)は34.4%であり、OECD加盟国平均の34.0%とほぼ同じだ。内訳を見ると、日本は個人・法人に対する所得課税が11.2%、社会保険料が13.3%、消費税を含む財・サービスへの課税が7.2%などとなっている。OECD平均はそれぞれ12.3%、8.7%、10.6%であり、これとの対比では所得課税と消費課税が軽く、社会保険料が重いのが日本の特徴である。
さらに税収のGDP比を区分けすると、個人の所得に対する日本の課税は6.5%でOECD平均の8.2%より軽く、法人の所得に対する日本の課税は4.7%でOECD平均の3.9%と比べて重い。消費課税のうち、付加価値税(日本の消費税はこれに該当)は日本の5.2%に対し、OECD平均は7.0%である。
また、日本は国税が13.4%、地方税が7.7%である。単一国家の平均は中央政府による課税が22.2%、地方政府による課税が3.8%というバランスであり、日本は国税が貧弱で、地方税が連邦国家並みに大きい。
これらの数値は、マクロで見た税収のGDP比を拾い上げただけで、税制の将来像を考える際の材料の一つにすぎない。だが、どの課税を抑制すべきか、行政サービスの追加財源が必要だとしたらどの課税にその余地があるのかを端的に示しているようにも思われる。
選挙を経た結果、税制の議論に刺激が与えられ、人々の関心も高まった。公平かつ簡素で、個人や企業の行動をできるだけ歪めない税制とはどのようなものであるのか。また、人口減少と超高齢社会の下でも社会を持続できる税制をどう設計すべきか。課税の在り方を決めることは民主主義と一体であり、税制の大きな方向性を検討することこそが、政治に求められる役割である。
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調査本部
常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
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