地方創生を左右する地域コミュニティの強化
2024年11月29日
石破政権は、これまでの政権以上に地方創生、地域経済活性化を政策の柱としている。「地方創生2.0」と銘打ち、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、担当大臣の下で今後10年間の集中的な総合対策を講じる考えだ。振り返れば、これまでの政権においても、同分野の政策は重要視されてきた。しかし、とりわけ、東京一極集中の是正と地方自治体の持続可能性の維持・向上という課題に対して、期待するような成果が上がってきたとは思えない部分が多々ある。しかし、ここは批判するよりも、国民一人一人が自分自身の身近な問題と捉えて、地方創生、地域経済活性化にどのような政策が必要であるか改めて考える良い機会としてはどうだろうか。
この点において、筆者は非常に“良い機会”を与えられている。それは、現在、静岡県袋井市の「第3次袋井市総合計画」(計画期間は2026年度~35年度の10年間)策定のための審議会委員(※1)を務めているからである。15年度に策定され25年度に期間満了を迎える現第2次計画は「活力と創造で 未来を先取る 日本一健康文化都市」をまちの将来像に掲げて進められている。
同市によれば、総合計画とは「市と市民が目指すべきまちの将来像を共有し、その実現に向けて計画的に行政運営を行っていくための基本的な考え方や目標を定めた市の最上位の計画」としている。加えて同市は、新たな総合計画の策定のために、21の政策分野を掲げている。具体的には、「農業環境」「都市計画景観」「子育て支援」「教育」「健康長寿」「地域医療」「地域福祉」「スポーツ」「金融経済」「女性活躍」「地域産業・ローカルメディア」「農業」「観光」「危機管理・広域行政」「土木防災」「地域防災」「地域コミュニティ」「国際交流・多文化共生」「デジタル」「移住」「若者・Uターン・文化芸術」である。これらの分野の専門家が審議会委員(筆者の担当は金融経済)として1年程度かけて政策議論を重ねていく。6月からすでに4回の審議会が開催された。その中では、各委員が現総合計画の強み、弱み、機会、脅威を具体的に指摘しながら(いわゆるSWOT分析)、新たな総合計画の策定に向けて活発な議論がなされている。
これら政策議論において、筆者が最も重要と認識している政策分野は地域コミュニティである。地域コミュニティの専門家は、同市の自治会連合会の会長。つまり、最も身近に地域の課題に直面している自治会という地方自治の最小単位の“首長”である。地方自治体の持続可能性の維持・向上を図る上で、自治会の運営の強化は非常に重要といえよう。つまり、総合計画の定義の中にあるように「市と市民が目指すべきまちの将来像を共有」することにつながる“1丁目1番地”に位置する政策課題と認識している。
これまでの政権の地方創生、地域経済活性化の政策における全体像や大きな範囲を対象として考えるマクロな視点も重要ではあるが、それらをより個別具体的にミクロな視点での解決策につなげる必要があろう。市民一人一人が、マクロ、ミクロの両方の視点からバランスよく政策課題を意識して、積極的に政策課題を共有し、解決に向けた行動を取る環境づくりをすることが重要である。地域コミュニティの軸である自治会の持続可能性を向上させ、地方自治体の基盤を強化できるかが、石破政権の掲げる地方創生の成否を左右するのではないか。
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金融調査部
主席研究員 内野 逸勢