あなたの国にダンゴムシはいますか?

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2024年11月20日

  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 平田 裕子

昨年、子の自由研究のため、知人のSNSを通じて世界に問いかけをしたところ、実にさまざまな返信をいただいた。欧州、米国、オセアニア、アジア・・・、ダンゴムシの生息域がとても広いことがわかった。「小さい頃は一緒に泥んこ遊びをした!」(米)、「今はガーデニングの相棒です」(仏)などそれぞれの想いも添えられており、微笑ましい交流となった。

日本でよく見かける黒いダンゴムシは「オカダンゴムシ」という種名で、実は、明治時代に輸入品に紛れて入ってきたとされる「外来種」であることはご存じだろうか。外来種というと「悪」のイメージがあるが、生態系などに被害を及ぼすおそれのある外来種が「特定外来生物」として指定されており、一概に悪いわけではないようだ。さて、自由研究の詳細は割愛するが、「オカダンゴムシ」の観察を通じて、この小さな種(しゅ)が、丸くなるという得意技も含めて、いかに環境に適応しながら進化を遂げ、種として存続してきたかその重みを感じる経験となった。

環境省(※1)によると、現在、地球上には、未発見のものを含めて3,000万種を超える生き物がいると推定されている。国連ミレニアム生態系評価では、その絶滅スピードが、かつては100年間で1万種あたり0.1~1種であったのに対し、直近100年では1万種あたり約100種となり、記録されていない生き物も含めると、絶滅スピードが1,000倍以上に上昇したとされている。

この「生物多様性」の減少の原因について、2019年のIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム)による「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書(※2)」では、①陸と海の利用の変化、②生物の直接的採取、③気候変動、④汚染、⑤外来種の侵入、と特定している。同報告書では、陸地の75%が著しく改変され、湿地の85%以上・サンゴ礁の約50%が消失したことなど多くの定量データが示された。同報告書を受け、2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、2030年ネイチャーポジティブが目標として掲げられ、上記原因への対応を含む23のグローバルターゲットが設けられた。日本でも2023年に「生物多様性国家戦略2023-2030(※3)」が策定されたことは記憶に新しい。

ところで、「生物多様性」がなぜ重要なのか、実はよく聞かれる質問である。考えてみれば、生物多様性という言葉が認知されてまだ間もなく、教科書で食物連鎖は習ったけれど・・・という人が大半であろう。腹落ちするまでは時間がかかる。

生物多様性とは、生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性の3つのレベルの多様性を意味する包括的な概念とされている。そして、生物多様性は、人類にさまざまな恵みをもたらしている。その恵みは生態系サービスと呼ばれ、以下4つのサービスに分類・整理されている。①供給サービス(食料、水、木材などの原材料、薬用資源など)、②調整サービス(大気、気候、災害緩和、水量・水質など)、③生息・生育地サービス(生息・生育環境など)、④文化的サービス(自然景観、レクリエーション、文化など)、である。簡単にいえば、これらのサービスが生物多様性の減少により劣化しているのである。

さて、WEFのレポート(※4)によると、世界の総GDPの半分以上に相当する44兆ドルの産業が、自然のもたらすサービスに中~高程度依存していると試算されている。ビジネス・経済界もまた、生物多様性と密接な関係にあるということだ。前出のIPBESでは、「ビジネスと生物多様性の評価」に関する報告書を作成中であり、今後も、ビジネスと生物多様性の関係性を評価する研究は進むと考えられる。また、TNFD(※5)やSBTs for Nature(※6)に対する企業の取り組みも、試行的なものから本格的なものへ移行しつつある。生物多様性について、ビジネス界からも行動を起こすことが、今後、より求められている。

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平田 裕子
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マネジメントコンサルティング部

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