東京市場の中国離れの意味
2024年11月08日
東京株式市場は夏ごろまで堅調だったが、8月初めに急落した後は上値が重い。一方で、上海株式市場は夏ごろまで低迷していたが、9月後半から急反発が見られた。今年の日中両市場の株価推移は対照的だ。
このように対照的な値動きとなるのは、実は久しぶりの出来事だ。昨年までの日中の株価指数の方向は、概ね順相関の状態が長く続いていた(図表参照)。海外投資家から見ると、中長期的に日中市場は類似の関係にあったといえる。このような関係の背景としては、2000年代の中国の急速な経済発展に伴い、日中経済の結びつきが強まったことが挙げられる。この間、日中間の政治的な関係は決して安定していなかったが、経済面への影響は限定的だったといえる。かつての「政冷経熱」の名残といえるかもしれない。
現在、中国経済は不動産不況に苦しみ、実質GDP成長率は2024年4-6月期・7-9月期と連続して政府目標(前年比+5.0%前後)を下回った。これに対して、中国当局は矢継ぎ早の経済対策を繰り出すことで景気回復を図っている。一方、日本経済は最近までデフレ脱却や、企業の業績回復とガバナンス改革等が高く評価されてきたが、足元はやや足踏み状態だ。加えて、総選挙での与党敗北後には政策面の不透明感も一層強まっている。短期的には、確かに経済が逆方向を向いている印象もある。
中長期的にも、日中間で政治のみならず経済面のデカップリング、デリスキングが進行した影響が出始めた可能性があろう。中国軍の日本周辺での活発な行動や台湾問題、処理水問題などを含め、日中間の政治的な課題は引き続き大きい。また、主に日本での経済安全保障への意識の高まりによる中国外しの動きは、一部に不可逆性があるほか、米国新政権の行方にも影響され得る。そのような状況下での日中株価の逆相関は、東京市場の中国離れ(あるいは上海市場の日本離れ)を象徴していると考えられる。
ただし、例えば中国から日本へのインバウンドについては、他国には後れたものの足元で本格的に回復しつつある。日中関係が再び深まる可能性が閉ざされたわけではなく、そもそも隣り合う経済大国として、完全なデカップリングは現実的ではない。
日中間の政治・経済関係の先行きは見通しにくい。これに対して、少なくとも経済面では両国の株価指数の推移が一つの指標となりそうだ。今後もマーケットの動きの変化に注目したい。
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経済調査部
シニアエコノミスト 佐藤 光
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