「ネットゼロ」実現に向けて注目度が高まる炭素除去・吸収系カーボンクレジット
2024年10月23日
温室効果ガス(GHG)排出量の「ネットゼロ」(正味ゼロ排出)を目指す動きは、世界的に大きな潮流となっている。企業等がネットゼロ目標の達成に向けて取組む手段の一つとして、カーボンクレジットの購入によるGHGの相殺(カーボン・オフセット)が挙げられる。カーボンクレジットとは、ある主体がGHG排出量を削減・除去した分を、第三者が取引可能なクレジットとして認証したものをいう。現状、森林保全や省エネ/再エネ設備の導入など排出回避・削減プロジェクトから創出されるものが発行量の大部分を占めるが、足元では直接空気回収(DAC)(※1)やバイオ炭などネガティブエミッション技術(大気中から人為的にGHGを回収・除去する技術)由来のプロジェクトから創出される炭素吸収・除去系クレジットの重要性が高まってきている。
背景には、2050年までにCO2排出削減努力をしてもなお削減しきれずに残る排出量(残余排出)が発生すると考えられることから、ネガティブエミッション技術が必要になることがある。加えて、排出回避・削減系クレジットの品質面での信頼性が低下し、企業がグリーンウォッシング(見せかけの環境対応)との批判を回避するため利用に慎重になっていること、国際的なイニシアチブであるSBTi(科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ)が残余排出の中和(相殺)に高品質な炭素除去・吸収系クレジットの利用しか認めていないことなども挙げられる。
需要側の動向としては、米IT大手や高排出セクターの一部がDAC技術開発を手掛ける企業に開発初期段階から資金提供し、将来の時点で炭素吸収・除去系クレジットを大量購入する契約などを締結している。最近の具体例を挙げると、2024年9月、グーグルがAI向けデータセンターでのオフセットを目的に、カナダのスタートアップから2030年代初頭に納品されるDACの炭素除去クレジット計10万トンを購入する契約を発表した(※2)。このような取組みは、将来の残余排出の中和を見越した先行投資と位置付けることができる。ただし、開発が計画通りに進まないリスクも少なからずあるだろう。
一方、クレジットの創出事例(供給側)は、ネガティブエミッション技術に関連する方法論(※3)が開発途上であることもあり、まだ限定的である。注目できる例としては、2024年5月、スイスのClimeworksがアイスランドに有する世界初となる商業用DACCS(※4)施設につき、CO2貯留を手掛ける他社と連携し、クレジットを創出したケースが挙げられる。このクレジットは、民間のレジストリ(認証機関)であるPuro.earthの認証基準の下で炭素除去活動に関する第三者認証を取得している(※5)。今後は、高品質なクレジットの証となるCCPラベルの付与(※6)などで、さらに信頼性を向上させるといった方向性が期待されよう。
ネガティブエミッション技術の大規模商業化に向けては依然として課題も多い。しかし、炭素吸収・除去系クレジットによる残余排出の中和に意欲的な企業による同クレジットの需要増加と、関連技術に対する先行投資は、コスト削減等につながる技術開発を資金的に後押しし、将来のネットゼロ社会の実現に寄与するものと期待される。
(※1)Direct Air Capture の略。
(※3)GHG の排出削減・吸収に貢献する技術ごとに、適用範囲、算定方法、モニタリング方法等を規定したガイドライン。
(※4)DACとCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素の回収・貯留)をつなげたもの。
(※6)CCPラベルは、ICVCMの「コアカーボン原則(Core Carbon Principles: CCPs)」の基準を満たす高品質なカーボンクレジットに付与される。Puro.earthがCCPsの基準を満たすかについては、現在ICVCMにて審査中(2024年10月16日時点)。
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金融調査部
主任研究員 依田 宏樹