東京証券取引所の取引時間延伸と適時開示
2024年10月02日
金融商品取引法の研究者「甲」とその旧友で上場会社の総務部長「乙」との対話
甲:2024年11月5日から東京証券取引所(東証)の売買立会の終了時間が15時から15時30分に延伸される。要するに取引時間が30分延長されるわけだ。
乙:それに関して一つ悩み事がある。我々上場会社が行う適時開示のタイミングのことだ。
甲:おいおい、東証の有価証券上場規程では、適時開示情報は「直ちにその内容を開示しなければならない」というのが大原則だ(※1)。実際、東証も「会社情報の適時開示については、投資者への迅速な情報伝達や、市場取引によって資本市場の価格発見機能を適切に発揮する観点を踏まえ、立会時間中であるか否かを問わず、情報の発生後直ちに行うようにしてください」(※2)と要請しているはずだ。これを遵守する限り、取引時間が延びても適時開示には影響はないはずだろう。
乙:それは、わかっているよ。だけど、実際には取引が終了した「大引け」後に開示を行う「引け後開示」の上場会社が多数派だ。売買立会中に開示を行ったために自社の株価が乱高下するといったことはあまり好ましくないからね。
甲:いやいや、重要な新しい情報が出てきた以上、それを価格に織り込もうという動きがでるのは市場機能として当然だろう。それよりも取引が終了して、その日の終値が決まってから、「実はこんな重大ニュースがありました」という方が、「後出しジャンケン」のようで市場に対しても投資家に対しても誠意に欠けると思うがね。
乙:甲の言うことは正論だとは思うが…。では、質問を変えよう。東証の取引時間の延伸を受けて、取引時間中でも適時開示を行う企業は増えると思うか?
甲:うーむ。多少は増えるとは思うが…。報道などを見ても、あまり大きく増加する見込みはなさそうだな。
乙:そうだろう。グローバル企業はともかく、限られたリソースで管理部門を頑張って回しているうちのような企業としては、多数が「引け後開示」を継続する中、率先して取引時間中でも開示を行っていくのは厳しいのだよ。
甲:気持ちはわかるが(笑)。それなら何を悩んでいるのだ?
乙:株主、投資家の反応さ。「引け後開示」を継続することで株主、投資家からの厳しい批判にさらされないかと悩んでいる。
甲:ある程度の批判は避けられないだろう。特に株主、投資家からなぜ「引け後開示」を続けているのかと問われた際に、適時開示の本旨を見失った「言い訳」に終始することがないように気をつけるべきだ。
乙:また、甲の禅問答か(笑)。その心は?
甲:別に難解なことは言っていないよ。できる、できないは別にして、適時開示はどのタイミングで行うのが本来の姿か、株主、投資家と視線を合わせておけ、ということだ。そうでないと、初手から対話が噛み合わなくなるだろう。
乙:なるほど。多数の上場会社で慣行になっているからといって「引け後開示」を当たり前と考えるな、本来、適時開示は立会時間中であっても速やかに行うものだということを忘れるな、と言いたいのだな。
甲:その通りだ。今後、「引け後開示」への風当たりは強くなることはあっても、弱まることは考えにくいからな。
乙:なかなか一気に変えることは難しいが、できることからコツコツと取り組めることはないか、考えておく必要はあるかもしれないな。
(※1)東京証券取引所 有価証券上場規程402条
(※2)東京証券取引所『会社情報適時開示ガイドブック』(2024年4月版)p.27
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。