地方圏における今後の若い世代の女性人口流出対策は広域で
2024年09月30日
日本の合計特殊出生率(以下、出生率)の低下が止まらない。人口動態統計(※1)によると出生率は2023年に1.20と統計調査が開始されて以来最低を記録した。また、全ての都道府県で出生率は2022年より低下しており、この低下傾向は地域を問わず、全国的な傾向と言える。これまで、政府や自治体により様々な子育て支援策が講じられてきたが、少子化傾向は続いており、短期的に歯止めをかける見通しは立っていない。
少子化に加えて、高齢化の進展もあり、労働力不足など人口減少に起因する様々な問題が表面化している。特に地方圏においては、人口減少によって社会の維持が容易でない地域もみられる。地方圏の人口減少が大きく進む要因に、出生率に関しては地方圏が相対的に大都市圏を上回っているが、それ以上に人口流失していることが挙げられる。その中でも、特に若い世代の女性における人口流出が大きい。地方圏においては、出生率が高くても、母体となる出産適齢期の人口減少が続くとなれば、人口減少は止まらない(※2)。
こうした状況に地方自治体が手をこまねいていた訳ではない。先の子育て世代への支援に加えて、移住や婚活支援など様々な対策を講じてきている。しかし、全体的には大きな効果があったとは言えない状況である。その背景には女性を巡る環境の社会変化が考えられる。
その一つが、女性の高学歴化だ。例えば、2000年代半ばまでは50%を切っていた女性の大学等進学率は2023年には62%に達し、地域別で最も低い沖縄県でも49%に達する。全体では約3人に2人近くが、最も低い県でも約2人に1人は進学している訳だ(※3)。こうした現状を反映して、最近の若い世代における女性の就業傾向はより大きな企業に、就業形態は正社員にと言った傾向もみられる。労働力不足が叫ばれる中、こうした傾向は今後も続くと考えられる(※2)。加えて、アンコンシャス・バイアス(性別による無意識の思い込み)の地域差が、地方圏からの若い世代における女性の人口流出を促している可能性も指摘されている(※4)。
以上から、多くの若い世代の女性が求める社会環境の多くが整っているのは大都市圏となってくる。こうした社会変化を踏まえると、人口減少対策として市区町村単位の子育て支援や移住促進策では限界がある。女性に選ばれる社会環境の整備と考えれば、都道府県単位でも容易ではなく、より広域な連携による地域づくりが求められる。無論、全ての若い世代の女性が同じ環境を求めている訳ではないであろう。したがって、広域で連携しつつ、進学や就職、ライフスタイルや価値観において多くの選択肢が存在する大都市圏的なコア地域を形成しつつ、従来の多様な地域社会の維持も進める必要がある。こうした地方圏が形成されれば、大都市圏的なエリアの周辺に様々な地域社会が存在することで、現在の首都圏などの大都市圏より多様な選択肢を提供できる可能性もある。
無論、その結果として、地方圏の一部が大都市圏化することで出生率が低下する懸念はあるが、それは人口流出先の大都市圏で低いのか、地方圏に残って低いのかの違いである。それよりは、出生率の低迷と人口減少が続くことを前提に、社会変化を踏まえて女性に選ばれる地域づくりを重視した人口減少社会の設計を広域で検討する時期に入っているのではないか。
(※1)厚生労働省「令和5年 人口動態統計(確定数)」
(※2)岩田豊一郎「コロナ禍を踏まえた人口動向-出生動向と若年女性人口の移動から見た地方圏人口の今後-」(大和総研コンサルティングレポート、2024年3月28日)では、出生率や人口移動、女性の社会進出等、様々な分析を行っている。
(※3)文部科学省「令和5年度 学校基本調査」
(※4)内閣府「地域経済2023」
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マネジメントコンサルティング部
主任コンサルタント 岩田 豊一郎
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