地方のPB黒字の背景には何があるのか?
2024年09月25日
内閣府が2024年7月29日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」(以下、試算)によれば、2025年度には国・地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)が黒字化し(※1)、その後も黒字が続くとされている。この国・地方のPBに関しては様々な議論があり、実際に2025年度に黒字化するかは疑わしいが、ここでは地方に焦点を当てたい。
PBを国と地方で分けて考えてみると、内閣府の試算上では、2025年度でも国は赤字のままであり、地方が黒字になっている。この地方のPBは2033年度までの試算期間中を通じて黒字が予測されている。
過去の試算と比較しても地方のPB黒字は増加傾向だ。GDPギャップがゼロになり需要不足が解消される時期(※2)の地方のPBは、例えば2021年1月の試算ではGDP比+0.4%であったが、直近の試算ではGDP比+1.5%だ(いずれも経済成長が低めのケース)。金額に直すと7兆円も黒字が増えている。
この状況をどう解釈すべきだろうか。地方の財政健全化努力が効果を上げるとも見て取れる。しかし、国から受け取った地方交付税などが地方で効率的に使われていない可能性もあろう(地方交付税については「使途が不分明なまま渡し切りとなって」(原文ママ)おり、数千億円規模で未使用・不用が生じているとの指摘もある(※3))。とりわけ新型コロナ対策が講じられた時期には、国から多額の資金が地方に移転された。内閣府の試算ではその構造が残存しており、現行制度の下で、国からの資金が十分に使われないまま地方の積立金が増え続ける状況を示していると考えることもできよう。
積立金の適正水準についての議論もあるだろうが、地方が積立金を過度に保有する必要はないし、国が地方に過剰な補助金を回すべきでもないだろう。PB黒字化の目標が達成されるのはよいことであるが、効率的な財源の使い方がされているか、常に検証されるべきだろう。
(※1)復旧・復興対策及びGX対策の経費及び財源の金額を除いたベース。
(※2)試算上で実質GDP成長率が潜在成長率と等しくなる時期を、GDPギャップがゼロになる時期と想定した。
(※3)財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会 資料3「地方財政」p.22(2022年10月13日)
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- 執筆者紹介
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経済調査部
シニアエコノミスト 末吉 孝行
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