『キュアの精神とケアの精神』
2025年11月07日
かつてある難病の調査をしたことがあり、その分野で日本を代表する二人の医師に面会した。一人は、難病の薬を開発しており、OTC(店頭医薬品)として、誰もが薬を手に入れられる世界を目指していた。話を聞いた私たちはその薬の将来性に大きな希望を感じた。
もう一人は、その難病にかかった人の症状から生じる様々な不都合をどのように軽減していくかに取り組むスペシャリストだった。インタビューが終わった後の当時の上司の言葉は今でも印象に残っている。「先生、その病気にかかることが前ほど怖くなくなりました。」
私たちは、病気やけがをすると医師に「元通りになりますか」と尋ねることがしばしばある。たしかに医学の進歩は目覚ましいし、手術や医薬品の力で元通りの生活を送れるようになるケースも増えてきた。医学や薬学を支えているのは、まずはそういうキュア(治癒)の精神であろう。その恩恵は言うまでもない。一人目の医師からは、強くその印象を受けた。
しかし、老化をはじめとして、私たちの体は不可逆的な変化を受け入れざるをえない場合もある。その時、看護や介護、リハビリなどを中心としたケア(手当て)の精神が必要とされる場合もあろう。変化を遅らせ、あるいは適応できるよう支援するのがケアであり、二人目の医師はまさにその実践者だった。
もちろん、キュアとケアは相反するものではない。相互が補完してQOL(生活の質)を高めていくのが医療現場での医療従事者の使命だと思われる。
未曽有の高齢化社会である日本は、大介護時代に突入したとも言われている。人的資本経営の視点から言っても、働きながら介護する従業員が消耗してしまわないことが重要だ。必要なリソースを確保した上で、衰えつつあるものと一緒に、粘り強く、したたかな戦いを続けていく—そういう精神が評価される時期に来ているのではないだろうか。
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- 執筆者紹介
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データアナリティクス部
コンサルタント 江藤 俊太郎
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