中国:定年延長を決めるのになぜこんなに時間がかかったのか?
2024年09月20日
2024年9月13日、中国政府が公務員や会社員などの法定退職年齢の引き上げを決定した。骨子は、①法定退職年齢を男性は現在の60歳から、2025年以降15年かけて段階的に63歳に、同様に女性非管理職は50歳から55歳に、女性の幹部は55歳から58歳に引き上げる、②年金受給のための保険料支払期間を最低15年から20年に引き上げる、などとなっている。
中国の定年制は1950年代に形成され、国連の世界人口推計2024年版によれば、1950年の中国人男性の平均寿命は42.2歳、女性は45.7歳だった。生活・医療水準の向上によって、2023年はそれぞれ75.2歳、80.9歳まで長寿化している。さらに、1979年から2014年まで続いた一人っ子政策の影響が加わり、中国の少子高齢化は急速に進んだ。15歳~59歳の生産年齢人口は2012年以降減り続けている。労働力の確保や年金の枯渇リスクの低減からも定年延長は喫緊の課題であった。
定年延長の話は、早くも2008年11月には政府系シンクタンクが提案を行っていた。具体的には、社会保障研究所は、女性が2010年から、男性は2015年から3年ごとに1歳、退職年齢を引き上げ、2030年以前に男性は65歳まで引き上げることなどを提案していた。その後、2013年11月の第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)では、漸進的な退職年齢引き上げを研究・制定するとしていたが、実現までそれから10年以上の年月を必要とした。しかもその中身は2008年当時の提案よりもマイルドなものとなっている。
事実上の一党独裁の国で、なぜこんなに時間がかかったのか?一言でいえば、定年延長は政権批判が高まりかねない不人気な政策だからだ。一般論になるが、中国では「一人っ子政策」の影響もあり、子ども、ましてや孫はかわいくて仕方がないらしい。また、中国では夫婦共働き世帯が多く、(ベビー)シッターを雇うにもかなりの金額が必要なことから、祖父母が面倒を見ることも多い。さらに、早く引退してかわいい孫の面倒を見るのが、生きがいとする人も多いのだそうだ。だからこそ、定年延長はより慎重により時間をかけて行うようにしたのであろう。
さて、定年延長と同様に、これまでも何度も俎上に上げられてきたが実現していないものに「相続税(遺産税)」がある。新中国建国後まもない1950年に発表された「全国税政実施要則」では、相続税を徴収すべき税種の一つに挙げていた。こちらは国民に不人気というよりも経済的に成功した既得権益層から不人気なのだろう。汚職などで失職・失脚する共産党幹部の多さを見るに、彼らもまた既得権益層なのだろう。習近平氏にとって、身を切る改革が断行できるか、本当の試金石は「相続税」の導入だと思うのだが、どうだろうか。
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経済調査部長 齋藤 尚登