注目されるインバウンド関連企業の資金使途と経営戦略
2024年09月04日
小売やホテル業界にはインバウンド需要の復活という追い風が吹いている。日本政府観光局(JNTO)が発表した「訪日外客数(2024年7月推計値)」によると、今年の7月の訪日外客数は329万人と2ヵ月連続で単月での過去最高を記録し、年初から7月までの累計ベースでは2,100万人を超えて過去最も速いペースで増加している。海外からの訪問者数が増えたことで、ホテルの稼働状況も改善している。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、7月の外国人延べ宿泊者数(各日の全宿泊者数を足し合わせた数)は前年同月比で35%増、2019年7月との比較でも38%増と、コロナ禍前の水準を超えている。
百貨店や都市型家電量販店、ホテル等の上場企業の決算や説明会資料からも、インバウンド需要が業績を押し上げていることがうかがえる。直近の四半期決算の段階で、インバウンド需要が想定以上となっている現状を踏まえ、今期の業績予想を上方修正した企業も少なくない。ただ、好調な業績を背景に1株あたり配当金の上方修正も期待されるが、配当に対するインバウンド関連企業の姿勢が積極的になっているわけではないようだ。配当予想については据え置いたり、配当予想を上方修正しても配当性向はおおむね前期と同じ水準としたりしている企業が多い。
これまで、日本の上場企業が総じて配当性向や自社株買いを含めた総還元性向を高めてきたことを踏まえると、これらのインバウンド関連企業の株主還元への姿勢を残念に思う投資家もいるかもしれない。しかし、そのように判断するのは、内部留保される資金が何に使われるかを分析してからでも遅くないだろう。というのも、日本を訪れる外国人(顧客)が増える傾向にある中、顧客のニーズを喚起して取り込むためには、設備の新設・改装・販売部門や調達部門の強化などへの投資が必要となるからだ。成長(業績拡大)を通じて株主に利益を還元しようとする動きであれば、中長期的にはより多くの株主還元を享受できる可能性もあろう。もちろん、投資にはリスクも伴う。従業員数や設備の増強は固定費を増やし、売上が落ち込んだ場合には固定費が収益を圧迫してしまう。これまでの投資計画で想定した利益を達成できなかった企業の中には、インバウンド需要の盛り上がりはあっても、慎重な投資計画に留まるケースもあるだろう。「株主還元と成長投資のバランス」や「固定費の増加をコントロールしながらいかに売上を増やすか」という点で、インバウンド関連企業の経営戦略や資金使途が、今後注目されよう。
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主席研究員 中村 昌宏
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