金融経済教育はどのような教育方法が効果的か
2024年09月02日
金融経済教育を官民一体で進める金融経済教育推進機構(J-FLEC)が8月から本格稼働している。出張授業の受付を開始するとともに、出張授業で利用する講義資料をウェブサイトで公表している。
講義資料は、学生・生徒、社会人、シニア層といった幅広い年齢層について、各年齢層に応じて求められる基本的な金融知識を解説している。例えば、高校生向けには、ライフプランニング、家計管理、資産形成、保険、ローン・クレジット、金融トラブルの基本といった内容が網羅されている。イラストを使って分かりやすく解説し、若年層向けにはクイズ形式で受講者に興味を持たせるような工夫もなされている。
講義資料は、中立・公正な立場から金融リテラシーの向上を目的として利用するなどの条件を満たせば、金融機関が行う講義で利用することも認められている。自社で講義資料を作成することが難しい金融機関にとって有用となろう。J-FLECの講義資料を用いて、様々な主体が金融経済教育を多くの対象者に対して行うことが期待される。
ただ、筆者がこれまで高校生向けに出張授業を行ってきた経験からは、座学で一方的に講義するよりも、生徒同士のグループワークで、実際の生活で遭遇し得る問題にどう対応するかを考えるという実践的な方法が効果的だと感じている。例えば家計管理に関して、単に「支出を収入の範囲に収めることが重要である」と教えるだけでなく、一定の収入額を前提に、食費、住居費、水道光熱費、被服費、娯楽費などの各支出項目にどのようにお金を配分するのか考えるといったワークを行えば、将来自分が実際に家計管理を行う際に役に立つだろう。
また、生徒同士のグループワークの形式で実施すれば、他の生徒の考えや価値観に触れることができるという効果もある。家計管理は、支出がある程度余裕をもって収入の範囲内に収まっていれば大きな問題はなく、その限りにおいては、どの支出項目により多くのお金を使うかはその人の価値観によって変わる。将来の目標実現のために支出をできるだけ抑えて貯蓄に回すという生徒もいれば、友人とのつながりを大事にして交際費に多く費やすという生徒もいるだろう。このように家計管理には一つの正解があるわけではなく、価値観や環境などによって様々なやり方があるということを学ぶことも大事なことだろう。
もちろんこのようなグループワークを行うには、時間もかかるし、資料の作成の手間もかかる。ただ、このような実際に遭遇する場面に対応するための実践的な知識こそ、金融経済教育においては求められているだろう。
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主任研究員 金本 悠希
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