日銀のETF買入政策の出口戦略に歴史的な株価暴落の警鐘

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2024年08月14日

この夏の株式市場は大波乱の展開となった。日経平均株価とTOPIX(東証株価指数)は7月に史上最高値を相次いで更新したものの、8月に入ると様相は一変して歴史的な暴落に見舞われた。日経平均株価は、8月5日に前日比4,451円28銭安で取引を終了し、過去最大の下落幅を更新した。

株価暴落のトリガーの1つとして、市場の想定を上回る日本銀行(日銀)の積極的な金融引き締めスタンスを指摘できる。そして、中央銀行たる日銀が非常に大きなマーケット・インパクトをもたらし得る存在ということを、多くの人があらためて認識する機会になったと思う。

今回の株式市場の動揺は、中央銀行として異例の政策である日銀のETF買入政策の出口戦略の議論にも波及すると見込まれる。日銀によると、ETFの保有額(時価)は2024年3月末時点で74.5兆円と巨額であり、これは同時期の東京証券取引所時価総額の7.4%程度に相当する。

海外の類似の事例として、1998年8月の香港金融管理局による大規模な株式市場介入が知られているが、その買入額は、同年8月14日時点の香港証券取引所時価総額の5.9%程度であった(※1)。単純比較には注意が必要であるが、購入規模という視点でみると、日銀の株式市場に及ぼす潜在的な影響度は香港の事例より大きいという見方もできる。

参考までに、香港の事例では、株式市場を大きく歪めないようにすることが出口戦略の「要諦」となっていた。「言うは易く行うは難し」だが、香港の当局は、巧みな売却スキームを考案し、説明責任を果たすことなどを通じて株式市場を動揺させることなく出口戦略を円滑に終了させた。こうした香港の事例から日本も学べることはあると考える。

今後、日本では、日銀が利上げによる段階的な金融引き締めを検討する中、次のテーマとしてETF買入政策の出口戦略に関心が集まることも十分想定される。今夏の株価暴落は、良くも悪くも、そうした将来に警鐘を鳴らす形となった。ただし、それは決して日銀に対してのみならず、市場関係者なども含まれるということを最後に記しておきたい。

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長内 智
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 長内 智