2024年04月24日
サマリー
◆香港では、1998年8月に香港金融管理局が株式市場介入を行った後、同年10月に「出口戦略」へと舵が切られた。実際の株式の売却は1999年11月から進められた。具体的な売却スキームとして、株式市場介入で購入した株式をETF(上場投資信託)に組成して売却するというスキームが用いられたことから、日本銀行のETF買入政策の「出口戦略」を巡る議論において言及されることも少なくない。
◆香港の「出口戦略」では、(1)外為基金投資有限公司(EFIL)の設立、(2)ETFの組成とその新規上場(IPO)による売却、(3)ETFのタップ・ファシリティによる売却、(4)為替基金による株式の保有継続、の4つが重要な構成要素となる。IPOの規模は333億香港ドルに達し、当時としては、日本を除くアジア地域において最大規模となった。IPOに申し込んだ個人投資家は18万人を超えた。
◆株式売却スキームの選択においては、個人投資家と機関投資家のいずれの需要にも応えられるという点や、売却するときに特定の個別株を選択する必要がないこと、さらには個別株のまま売却するよりETFの方が株式市場を歪めないという点などが考慮された。結果として、香港の「出口戦略」は、金融市場を大きく動揺させることなく円滑に終了した。
◆総括すると、第三者機関の設立による中立性の確保、情報公開等による透明性の確保、売却スキームの説明責任、株式の保有と管理の関係性、長期保有を促すためのインセンティブ、IPOとタップ・ファシリティによる売却額、株式の保有継続、が注目ポイントになる。香港と日本の置かれた状況は異なる点も多いが、これらについては参考になる面もあると考える。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
他市場にも波及する?スタンダード市場改革
少数株主保護や上場の責務が問われると広範に影響する可能性も
2025年12月03日
-
CGコードでの現預金保有の検証に対する上場会社の懸念
一見対立しているようだが、通底する投資家と会社側の意見
2025年11月07日
最新のレポート・コラム
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
開示府令の改正案が公表(2026年から一部適用)
有価証券報告書のサステナビリティ情報、人的資本、総会前開示に関する改正案
2025年12月10日
-
2025年12月日銀短観予想
輸出不振や原材料高で製造業の業況判断DI(最近)は悪化を見込む
2025年12月10日
-
議決権行使助言業者への依拠は共同保有認定
米国SECのウエダ委員が議決権行使助言業者規制の方向性を明らかに
2025年12月09日
-
日中関係悪化、中国は自国経済・社会の不安定化回避を優先か
2025年12月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

