猛暑の中で直面する脅威

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2024年08月09日

  • 経済調査部 シニアエコノミスト 佐藤 光

今年の夏も猛暑の様相となっている。今年7月の日本の月平均気温は、2年連続で観測史上最高を記録したと伝えられた。また日本国内だけではなく、地球単位でみても、7月には単日ベースの平均気温が最高記録を更新したと報じられていた。

熱中症は誰もが警戒しなければならない症状であることから、気温等の状況次第では外出の抑制やイベントの中止等が強く推奨されており、それらによる経済活動への悪影響も無視できなくなりつつある。異常気象ともいえる高温記録を生む背景にある地球温暖化への対策は、一層の工夫が求められる情勢といえる。

そのような中で、世界の電力需要は従来の見込みよりも上振れし、一段と増え続ける予想となってきた。温暖化による冷房需要のほかにも、AIの加速度的な普及やそれを支えるデータセンターや半導体需要の高まりが背景にあるとみられる。IEA(国際エネルギー機関)の「世界エネルギー見通し」では、2030年時点の世界の発電量予想について2023年版では前年版に対して2.8%上乗せされたほか、2030年から2050年にかけての発電量の年平均増加率予想も2.1%(前年版では1.8%)に上方改定された(※1)。電力需要の増加ペースの加速については、温暖化対策の大きな柱である再生可能エネルギーへの転換のハードルが上がるのみならず、根源的な対策でもある「省エネ」を無力化しかねない。一段の電力需要の増加は、倫理面や雇用面で取りざたされる諸問題とは別の側面からの「AIの脅威」といえるかもしれない。

一方で、世界の一部では反ESG機運の高まりや、EVをはじめ環境にやさしいとされる製品の普及ペースのスローダウンもみられる。卑近な例で恐縮だが、脱石油の観点からコーヒーチェーンやコンビニで一時広まった紙ストローも、最近では樹脂製に戻りつつある印象だ。マーケットの面でも、環境対策の先進地域である欧州で、排出権取引価格の低迷が長引いていることが指摘される。長期的には上昇傾向となっていたものの、2022年初以降は弱含みで推移している。これまで行われてきた環境対策について、温暖化抑止の観点からは明確な成果を得られないことが、対策コスト負担への世論の理解や企業の取り組みを鈍らせる要因になっているおそれがある。さらに、政治経済面での自国優先主義の台頭による逆風や、世論の分断の中で権力側に位置付けられることもある環境重視派への反発なども背景にあるだろう。

温暖化の進行に伴い、農林水産業を中心に事業環境が大きく変化したり、土砂災害や水害が頻発したりするなど、気候変動は人類に対して時として容赦がない。まずは足もとの高温の襲来に立ち向かうために、各人がどのように対処すべきなのかの悩みは尽きない。

(※1)いずれも、公表政策シナリオ(STEPS)での予測値より大和総研算出。

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佐藤 光
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