グローバルリスクをどうみるか ~米大統領選挙まで、あと約3か月~

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2024年08月07日

今年最大のグローバルリスクである米国の大統領選挙は、11月5日の投票日まであと約3か月となり、選挙活動はこれから佳境を迎える。通常であれば、再選を目指す現職大統領は一段と国内課題優先の思考となり、選挙優先のスケジュールになるものだ。2012年の時も、当時のオバマ大統領が党大会を優先して、9月のロシア開催のAPEC首脳会議を欠席した。

しかし、今回は状況が異なる。確かに、少し前までは、バイデン大統領は選挙活動を優先して、6月にイタリアで開催されたG7サミットの途中で帰国した他、同月のウクライナ関連の国際会議に参加せず、代わりにハリス副大統領らが出席した。

だが、テレビ討論会で精彩を著しく欠いた現職大統領に対して、身内である民主党内から立候補再考を求める声が強まり、外堀を埋められた結果、投票日まで残り約3か月半という異例のタイミングで、バイデン大統領は、大統領選からの撤退表明を余儀なくされた。この約3週間の間に、対立候補であるトランプ氏の暗殺未遂事件が発生し、奇跡的に軽傷で済んだ彼の力強さがフォーカスされ、両者の差が広がったことも撤退を促した可能性がある。

今後は現職大統領のレームダック化が懸念されるが、今回は大統領から現職副大統領へのバトンタッチを目指しており、政策の継続性を視野に入れて、活力に満ちた残りの在任期間となるかもしれない。バイデン大統領が高齢にもかかわらず、老体に鞭を打ってまで再選を目指した背景には、トランプ氏の返り咲き阻止があったと考えられる。実際、2023年12月には、“トランプ氏が出馬していなければ自分も出馬していたかどうかは分からない”と発言していた。トランプ氏が再選すれば、前回オバマ政権のレガシーを消し去ったように、バイデン大統領のレガシーも葬り去られよう。つまり、バイデン大統領は再選を目指さない敗者として去るのではなく、自らが選んだ副大統領が路線を引き継ぐことを強力に援護し、自らの花道を飾ろうとするだろう。

歴代の大統領45人(唯一返り咲いたクリーブランド大統領が第22・24代)を振り返ると、2期8年以上務めた大統領は14人と全体の三分の一にも満たない。また、大統領が任期中に死亡あるいは辞任したことで昇格した副大統領9人のうち4人が大統領として再選を果たしたが、いずれも大統領在任期間は8年未満である(※1)。例えば、第36代のジョンソン大統領はケネディ暗殺を受けて昇格し再選したが、もう一期4年間は目指さなかった(結局、在任期間は約5年2か月)。この他に、副大統領を務めた後に自力で大統領になったのは現職のバイデン大統領を含めて6人に過ぎず、その中で再選を果たしたのは第3代のジェファソン大統領だけである。直近でみれば、クリントン政権のゴア副大統領はすぐに大統領選に挑戦したが、ブッシュ(子)に敗れた。また、レーガン政権の副大統領だったブッシュ(父)は当選を果たすも、再選には失敗した。

このように、副大統領を経て大統領となり、そして8年間全うすることは至極困難といえよう。果たして、バイデン大統領からバトンタッチされたハリス副大統領は、短期決戦を制して初の女性大統領となるだけでなく、大成すること(2期8年)ができるだろうか。

一方、ハリス副大統領という新たな相手と対決するトランプ氏は“3選”“終身大統領”を口にすることがある。どこまで本気かはともかく、現実的には3選を禁じる憲法を修正する必要があり、その手続きは容易ではない。例えば、上下両院の三分の二以上の発議、四分の三以上の州(全50州のうち少なくとも38州)の同意が必要だが、今度の選挙で共和党が大勝しなければクリアできない規定である。ただし、これは、彼が既存のルールに従って行動する場合の手続きであることは言うまでもない。

(※1)1951年に批准された修正第22条により、前任者の任期を2年以上引き継いだ副大統領らは、大統領の職に1回を超えて選出されることはできないと規定された。皮肉にも、修正第22条を発議した時の議会構成は、上下両院とも共和党が多数派だった。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也