プロダクトガバナンス原則の策定——真に必要な箇所に意味ある取組みを

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2024年08月02日

政府が2023年12月に取りまとめた「資産運用立国実現プラン」を受けてプロダクトガバナンスに関する原則の策定作業が進められていたが、今般、その原案が公表された(※1)。プロダクトガバナンスについては、これまでの「顧客本位の業務運営に関する原則」でも、その原則6(「顧客にふさわしいサービスの提供」)に注書きが置かれ、金融商品の組成に携わる事業者は、商品の組成に当たり、商品の特性を踏まえて、想定する顧客属性を特定するとともに、それに沿った販売が販売事業者においてなされるよう留意すべきであるとされていた。今回は、この点に関してより詳細な内容を盛り込むべく、注書きに所要の加筆を行うとともに、「プロダクトガバナンスに関する補充原則」を新たに原則に追加することとされた。補充原則の原案では、具体的に、プロダクトガバナンスの実効性を確保するための金融商品の組成会社における体制整備や、商品組成時の想定顧客と実際の購入顧客が合致しているか等を検証して必要な改善に活かすための組成会社と販売会社との情報連携の取り決めなどが求められている。

確かに元の原則はあまりに茫洋としていたのかもしれない。しかし、プロダクトガバナンスという特定の問題に焦点を当てて詳細な補充原則が策定され、その実施状況が当局によりフォローアップされていくことで、もともとプリンシプルとして関係者によるベストプラクティスの形成を促すものであったはずの原則が、事実上、遵守が必須のルールとなっていかないかが懸念される。もしそうなれば、ルールに対応することだけを目的にしたような画一的・形式的な対応ばかりが関係者の間に拡がり、多大なコスト・事務負担を生じさせる一方で、真の目的は達成されず、ただ投資家の運用コストを増加させるだけの結果ともなりかねない。

この点に関しては、今回の検討過程でも同様の指摘がなされ、補充原則原案の前文では、「組成会社が金融商品の組成・提供・管理等に関する業務におけるベストプラクティスを目指す上で有用と考えられる具体的な取組みを補充原則として示す」、(補充原則の対象となる「金融商品」の範囲について)「組成会社においては本補充原則の趣旨を踏まえて適用範囲を自ら考え、…対外的に説明することが考えられる」、「組成会社及び販売会社におけるコスト及び実務面のフィージビリティにも配慮する必要がある」、「情報連携はそれ自体が目的となって、形式的・画一的な対応が助長されることのないように留意すべき」などの記述が置かれることとなった。費用対効果に十分留意し、真に必要な箇所に意味ある取組みが進められていくよう、当局には、これらの記述を踏まえた適切な制度運用を望みたい。

(※1)原案は、8月1日を期限としてパブリックコメント手続に付された。今後、そこで出されたコメント等を踏まえて最終確定される予定。

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池田 唯一
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専務理事 池田 唯一