定額減税直後に追加の物価高対策、問われる政策の費用対効果
2024年07月24日
2024年6月、岸田文雄首相は追加の物価高対策を表明した。5月で終了した電気・ガス料金の補助を「酷暑乗り切り緊急支援」として8~10月に再開し、ガソリンなどへの補助は年内に限り継続する。さらに年金世帯や低所得者世帯を対象とする追加の給付金も検討するという。
だが6月からは、1人あたり4万円の定額減税が始まったばかりだ。給与年収で2,000万円以下の納税者とその扶養親族を対象に、4人家族であれば計16万円が所得税と住民税から控除される。
定額減税の消費喚起はそれほど期待できない。過去の減税・給付金に関する先行研究や今回の減税の特徴などを踏まえると、3.3兆円の定額減税による消費喚起効果は0.3~0.7兆円程度(GDPベースでは0.2~0.5兆円程度)にとどまるだろう。一方、定額減税による家計所得の下支え効果は大きい。仮に電気・ガス・ガソリンなどへの補助が24年6月末で全て終了したとしても、大多数の世帯では、減税額は終了に伴うエネルギー代の増加額(25年5月までの1年間)を上回ると試算される。
定額減税の実施直後に表明された追加の物価高対策は必要性や整合性に欠け、政策目的が曖昧といわざるを得ない。必要性の低い人を含めて広く支援する政策の費用対効果は低く、バラマキ的であり、真に困窮している人に絞って重点的に実施すべきだ。
日本銀行の金融政策は正常化に向かっており、24年7月末の金融政策決定会合では国債買入れの減額計画が公表される。長期金利への上昇圧力が強まる中、金融政策に歩調を合わせて政府が財政健全化を進める重要性は一段と増すだろう。
政府は25年度に国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を黒字化させる財政健全化目標を維持しており、24年度の骨太方針では「25年度の黒字化が視野に入る状況にある」としている。だが目標の達成には、潜在成長率の引き上げなどによる歳入の増加に加え、コロナ禍以降に常態化した大型の補正予算編成からの脱却など歳出水準の大幅な引き下げが必要だ。現状はPB黒字化が視野に入る状況では全くない。
今後、政府は30年度までを対象期間とする「経済・財政新生計画」を定め、経済・財政一体改革を推進する方針だが、物価高対策を含めこれまでの家計支援策の効果や効率性をきちんと検証し、「ワイズスペンディング」を徹底すべきだ。
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経済調査部
シニアエコノミスト 神田 慶司