シニア層の就業促進を考える
2024年07月22日
5年に一度行われる公的年金の財政検証の結果が公表された。今回、検証結果とともに注目されたのは、次の年金制度改正における、基礎年金の保険料拠出期間を40年から45年に延長する案の“見送り”である。現状で59歳まで保険料を納付しているところ64歳まで延長することが検討されてきた。少子高齢化が進展する中で年金制度を維持していくためには、今後も避けて通れない議論には違いない。
64歳まで保険料を納付するためには、基本的にそこまで働き続けることが前提の考え方となる。総務省の労働力調査によれば、60代前半の就業率はこの10年で約15%ポイント上昇し74.0%(2023年)となった。とくに男性では84.4%に達しており、保険料納付に無理は生じないとの判断になるのだろう。また、60代後半でも52.0%と半数以上の人が就業している。
ちなみに海外はどうか。主要国の60代前半の就業率を見ると、米国56.7%、英国55.3%、ドイツ65.4%、フランス38.9%、イタリア44.1%と現状は概して日本より低い。一方、60代後半については米国32.4%、英国26.0%、ドイツ20.4%、フランス10.6%、イタリア14.7%にとどまり、大半の人が年金生活に入っている(いずれも2023年、出所はOECD)。
いずれの国でも60代前半、後半を問わず就業率は上昇傾向にあるものの、その中でも日本は長く働き続ける国のトップランナーである。そして45年延長案からもわかる通り、さらに長く働くことが促されているようにも見える。確かに平均寿命の延伸で60代以降の人生が長期化するとともに、健康寿命も少しずつ延伸して元気に働ける期間も長くなっている。とはいえ、やはり個人差があり、数字上の議論に対して色々思う人もいることだろう。
シニア層の就業促進にあたって重要なポイントの一つは「モチベーション」ではないかと思う。企業に勤めている場合、一般的には50代半ばで役職定年を迎えた後、60歳以降の再雇用では大きく給与水準が低下することが多く、モチベーションを保つのが難しいと言われる。体力的な面を含めて、年齢に応じてある程度生産性が低下するのは避けられないものの、モチベーションが低下すると生産性低下を加速させかねない。それは本人にとっても組織にとっても残念な状況をもたらす。
多くの人が長く働き続けるためには、モチベーションや生産性を少しでも高く保てるような環境づくりが重要なポイントとなるはずだ。そのためには、報酬体系を含めたこれまでの画一的な考え方を変えていくことも必要だろうし、適性職種のマッチングをしていくことも考えられる。さらにフリーランスを含めた就業形態の多様化も考慮できるとよいだろう。いずれにせよ、個々の企業努力では限界があり、より大きな単位での取り組みが求められる。
なお、シニア層の持ち味として知識や経験の深さが挙げられることも多いが、それはまさに現代のAIが補おうとするスキルに他ならない。シニア層自身はAI活用のスキルを身に付けて高い生産性を保つ必要があることを自分事として思う。
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