レベル4の自動運転バスに乗ってみた
2024年07月08日
政府は2024年6月18日に「デジタル行財政改革 取りまとめ2024」(以下、取りまとめ)を公表した。その中ではデジタル技術等を使った交通や教育などの個別分野の施策、そしてそれらの実現に必要なデジタル基盤やエビデンスに基づく政策立案(EBPM)を実現するための各施策が取り上げられている。
そのうち、交通分野では、人手不足による課題を克服するために、デジタル技術を実装した自動運転やドローンの事業化加速が大きなテーマとなっている。特に自動運転バスの実証実験は、現在、全国各地で行われており、筆者はこれまでも茨城県境町・日立市、岐阜県岐阜市、東京都羽田空港付近の自動運転バスに乗車または視察してきた。これらを含めて全国各地で行われているほとんどの自動運転バスは、いずれもレベル2と呼ばれる、運転手が常時運行状況を監視して、必要ならば手動運転に切り替える必要があるものだ。
一方、日本で唯一、運転手がいない、いわゆる自動運転のイメージに近いレベル4で運行しているのが、福井県永平寺町にある自動運転バスだ。この自動運転バスは2002年に廃止された京福電気鉄道永平寺線の線路跡を活用した遊歩道を走行するもので、バスはそのうち永平寺側に近い約2㎞の区間(荒谷~志比)で運行されている。現在は土日・祝日の運転のみであり、10時から15時までの間(12時台を除く)、20分間隔の運行となっている(※1)。昨年秋にこのバスが自動運転中に自転車と接触した事故がニュースになった。その原因究明や冬季期間のため一時運転を休止していたものの、今年3月に運転を再開した。先日、筆者もこのレベル4の自動運転バスに乗車してきた。
しかし、この自動運転バスはかなり特殊な形で運行されている。まず、走行する道路はそもそも遊歩道であり、歩行者や自転車を除けば、他の一般車両は入れず、実質、自動運転バス専用の道路となっている。具体的には、道路表面には黒い線の入った磁気誘導線が埋め込まれており、その上をバスが走る仕組みとなっている。走行速度は時速12km以下で、バスと言っても見た目は6人乗りのゴルフカートだ。もちろん、バスには障害物を検知するためのカメラやセンサーが備わっているものの、この形の自動運転バスを他の地域でそのまま展開するのは難しそうだ。
レベル4の自動運転バスが普及するには一般道での走行が可能になることである。それには車に付けるカメラ・センサーの高度化だけでなく、交差点の信号機等に設置されたカメラ等の機器と車がリアルタイムで信号機の状態や歩行者・他の車両の位置情報などのデータをやり取りするインフラの整備が必要になるだろう。さらに、雨天・積雪時などは道路状況が変わるので、安全な走行には気象データとの連携も必要だ。つまり、遅延のないデータ連携が求められる。
先の取りまとめにおいて、政府は自動運転レベル4の社会実装・事業化に向けた取組を推進するため、2025 年度に全都道府県での自動運転(タクシーも含む)の通年運行の計画策定又は実施を目指すとしている。地域の交通弱者を生まないためにもこうした取り組みの加速は歓迎されるべきであるが、自動運転が直面する技術的課題はまだ多い。暫くはデータ連携を中心にして本格的なレベル4の自動運転の実現に向けた模索が続くだろう。
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経済調査部
主任研究員 溝端 幹雄