人的資本投資と企業価値とのつながりを考える

-人的資本開示の次なる課題は-

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2024年07月05日

  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 元秋 京子

サステナビリティ情報の開示義務化2年目となる2024年3月期決算の有価証券報告書が順次公表されている。中でも人的資本開示の動向が注目されているが、多くの企業は有価証券報告書の開示事項だけでなく、統合報告書やホームページ等を通じて、自社としての人的資本経営の考え方を工夫して公表している。

人的資本の開示項目には、「価値向上」の観点と「リスクマネジメント」の観点があり、人的資本可視化指針(※1)では、7つの大項目(全19項目)が示されている。そのうち「価値向上」の観点が強いとされる「育成」「エンゲージメント」「流動性」「ダイバシティ」を主要テーマとして、人事施策・指標等に落とし込んで開示する企業が多く見られる。また、これ以外にも、「挑戦」を主要テーマとする企業もあり、イノベーションや将来的な価値創造に紐づくものとして重視していることがうかがえる。

企業の次なる課題は、「経営戦略と人事戦略との連動」や「人的資本投資と企業価値とのつながり」をどのように示すかに移ってきている。「経営戦略との連動」は、ビジネス戦略・マテリアリティ等から展開して人事戦略・主要テーマを設定し、これを人事施策・指標等に落とし込むことが想定されるが、「企業価値とのつながり」については、企業としての考え方を可視化して定量化することが難しいという声を聞く。

企業価値とのつながりを開示する事例として、①アウトプットとしての付加価値額(目標値)を設定、②ROICツリーやROEツリーをベースに収益性・資本効率性との関係を示す、③業績との相関分析や企業価値へのインパクトを示す、等があり参考としたい。

昨年、東京証券取引所より公表された、いわゆるPBR対応(※2)の中でも、「自社株買いや増配のみの対応や一過性の対応を期待するものではなく、継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取り組みを期待するもの」として、研究開発投資・人的資本投資や設備投資等があげられている。人的資本投資が、将来の成長期待や企業価値向上につながるという理解は深まってきているものの、人的資本の投資効果の測定・定量化は確立されておらず課題も多い。対外的な説明だけでなく現場にとっても納得感のある考え方を継続的に検討していくことが重要となるだろう。

(※1)「人的資本可視化指針」(内閣官房 非財務情報可視化研究会、2022年8月)
(※2)「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(東京証券取引所、2023年3月) 

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主席コンサルタント 元秋 京子